ツイッター小説 140字の風景(ミクタギの世にも奇妙な物語)

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ミクタギの世にも奇妙な物語

電話

1.

あの日あの電話に出なければ

こんな話に迷い込むこともなかったのに、、。

「もしもし。」

『お久しぶり。』

「どちらへお掛けで?」

『橋本さん?』

「違いますよ。」

『・・・。』

「番号違うと思います。」

『いいです。』

「え?」

『間違いでもいいんです。』

2.

1ヶ月ほど前。

休日に少し寝過ごした

お昼前くらいの出来事。

全く聞き覚えのない

女性の声だった。

「すいません。何ですって?」

『私を買って貰えませんか?』

「え? 何?」

『・・・。』

「イタズラなら切りますよ。」

『買って欲しいんです。』

『私の人生を。』

3.

気が触れていると思った。

電話を切らなくては。

しかし何故か意思に反して

私はこう切り出していた。

「どういうことですか?」

『・・・。』

「貴女の人生を買うとは?」

『・・・。』

「説明して貰えませんか?」

『来て下さい。』

「え?」

『◯◯ホテルに来て。』

4.

約束のホテル

宴会場の扉を開いた。

数百名が一斉に振り向く。

壇上の女性が

「今宵の落札者 ミクタギさんです。」

割れんばかりの拍手。

『えっ?』

「私となって生きて貰います。 顔も体も。」

屈強な男が二人脇を固める。

《まずは顔から。》

『ちょっと止めてくれ!』

タクシー

1.

もう深夜0時を過ぎた。

このご時世に残業とは

しかもこんな時間まで。

明日も早朝から出勤だ。

一刻も早く帰って、寝たい。

徒歩で15分程の距離も

今日の私には遠すぎる。

迷わず直ぐ、駅前で

タクシーに乗り込んだ。

『◯◯団地まで。』

運転手は無言で走り出した。

2.

いつも通り、走り出した。

そう思っていたが

どうも様子がおかしい。

徒歩で15分、車なら数分。

いつもあっという間に着く。

しかし、もう15分以上

走り続けている。

『運転手さん!道、間違ってませんか?』

「……。」

先程から、まだ一度も

口を開いていない。

3.

『運転手さん!聞いてますか?◯◯団地ですよ!』

「……。」

聞こえていないのか?

全く反応しない

真っ直ぐ前方を見つめ

両手でハンドルを握ったままだ。

『降ります!止めて下さい!』

強い胸騒ぎを感じ、そう叫んだ。

「……ませんよ。」

運転手が低い声で呟いた。

4.

初めて運転手が口を開いた。

『何ですって?』

運転手は前方を見つめたまま

「ありませんよ。◯◯団地は。もう。」

何を言っている?

異常者かもしれない。

早く降りなくては。

『ええ。もう大丈夫です。止めて下さい。』

それには答えず

やがて車は細い路地を左折した。

5.

車1台が精一杯な道を

タクシーは進んでいく。

辺りには霧も立ちこめる。

更に数分走り、停車した。

濃い霧の右前方に

うっすら建物が見える。

◯◯団地では?

しかしかなり古い。

徐々に霧が晴れて

全貌が明らかになる。

「今は誰も住んでいない。」

運転手が言った。

6.

間違いなく私の住む団地だ。

しかしこんなに古くはない。

新築と言うことで

妻と気に入って決めた。

『そんな…。貴方何をしたんです!』

困惑し声を荒らげた。

『妻は…。子供達…どこに?』

『戻って下さい!◯◯団地へ!』

矢継ぎ早にそう言うと

運転手が語りだした。

7.

「私もね…戻れるなら戻りたい。」

運転手が言った。

『え?』

運転手は続ける。

「幸せだったよ。」

「ずっと続くとね。」

『何を言って…?』

運転手は初めてこちらを向く。

「その時は分からなかった。」

「だから伝えに来たんだよ。」

その顔は…年老いた私だった。

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