ロスト・ケア ネタバレなし(葉真中顕)43人もの人間を殺害した男。彼は本当に殺人鬼なのか?

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ロスト・ケア ネタバレなし(葉真中顕)

序盤抑えるべきポイント

冒頭は裁判所での判決シーン。

被告人に死刑判決が降る。

43人もの人間を殺害した犯人には至極当然の事と思われる。

しかし判決の瞬間、彼は笑った……。

その笑みの意味するものは?

羽田洋子・斯波宗典・佐久間功一郎・大友秀樹、そして……彼。

交錯する5人の人生を並行して物語は進む。

*母の介護を献身的に続ける羽田洋子。

来る日も来る日も繰り返される日常に、身も心もボロボロです。

*介護職員として日々老人達の世話をする斯波宗典。

毎日大変ではありますが、誰かがやらなければならない仕事です。

*大手総合介護企業の営業部長を務める佐久間功一郎。

今や介護の世界はビジネスチャンス。

*地方検察に勤める検察官である大友秀樹。

犯罪者は適正に罰せられるべきである。

*日々粛々と殺人を続ける、彼。

正体不明
正体不明

……。

彼らがどう事件に関わり、関わらないのか?

注目しながらお読みください!

相関図

本編あらすじ

羽田洋子は、幼子を抱えるシングルマザー。身体の麻痺と認知症を患った母を介護する。初めのうちは世話になった母親に恩返し出来ている様な気がして達成感があった。しかし日々繰り返される終わりなき奉仕。その対象者である母からの暴言などで、徐々に心身ともに疲弊していく。幼子への育児も並行して行いながらダブルワークで生計を立てる。出来る事ならば、この苦しみから逃れたいと考えるようになる……。

斯波宗典は、介護職員として日々お年寄り達の世話に奔走する毎日。初めこそ介護はこれから無くてはならない仕事と国も全面的にバックアップした。給料も高いとは言えないがそれなりの報酬もあった。しかし徐々に風向きは変わる。介護とは奉仕の精神で行うもの。それで金儲けをするとは何事だ、という論調が次第に強まる。するとそれに引き摺られる様に国は手のひらを返す。助成金など少しずつ減らされ、職員の待遇も悪化の一途を辿る。それでも介護は増える一方。実際に携わりもしない人間達の机上の正義は関係者を蝕んでいく。

佐久間功一郎は、総合介護企業の営業部長。介護こそこの国の未来を変える。そう息巻いて日々営業に勤しむ。しかし先述した通り、実情を知らない者達の薄っぺらな正義により介護業界はどんどん世間からつま弾きにされる。親子でも苦しい介護の仕事。誰が他人を長期間、しかも無償で世話できるのか?理不尽さにやり切れず、彼は別の道を進む事になる。

大友秀樹は、地検に所属する検察官。高校時代の友人である佐久間の行動から周り回って、今回の連続殺人に辿り着いた。本来であれば見逃されていたであろう事実に気付けたのは、佐久間が持っていたと思われるデータが、ある事件の証拠として挙がった為だった。そこから犯人を絞り込んで行けたのは、部下・椎名の分析力によるものが大きい。そしていよいよ、大友達は犯人と対峙する……。

ネタバレなしで本編を楽しむ

本編の見どころは、最後の大友と犯人の対峙シーン。

幼少より裕福に育ち、性善説に基づく絶対的正義を疑わずに大人になり、そしてその正義を盾に犯罪者を訴追してきた大友。

その大友の正義が今回の犯人に届くのか?正義とは一体何なのか?

恐らく、読者それぞれが自問自答する事になると思う。

介護は奉仕。それも正論。介護は地獄。それも、間違ってはいない。

相反する事実がコインの表裏の様にくっついて離れない。

そんな我々は、果たして正義の中で生きていると言えるのか?

『正義』について今一度考える。現在の社会に生きる者に必要な事ではないか?

読者の感想

犯罪(クライム)は犯したが、人としての罪(シン)は負わない。殺人が犯罪であると承知しているが、自分は正しいことしかしていない…という「彼」に、たいていの人が同意するのでは?検事の大友が、これでもかと言うほど皮相的な正義感と性善説でしか対抗できないもんだから、余計に「彼」に肩入れを。社会がもっと変われば…というのも一理あるのですが、そもそも、人はいつになったら、どうなったら、死んでいいのでしょうか。人に生きるなとは言いませんが、私がこの本に出てくるような状態になったら生きているのは苦痛だろうなあ。

今の日本に重くのしかかる老人介護。誰もが年を取る将来に抱く不安なのではないだろうか。介護をする方もされる方も心的ストレスは半端ではないだろう。そこに焦点を当てた今作品。殺人犯はもちろん悪いのだろうが、救われてしまった人がいたこともまた確か。絆とは足かせでもある。重い言葉だと思った。

ミステリー的なあっと驚くどんでん返しがあり、介護や家族との繋がりなど社会的側面もあり、とても読み応えがあった。特に、小さい子供を育てながら母の介護をする女性のストーリーが印象的だった。彼女は、悪人ではないが、過酷な環境のせいで人の死を望んだ。それを罪ということは容易いけれど、その心境は同じ目に遭って初めて分かることだし、日本には同じ境遇の人が山ほどいて、それを見てみぬふりすことは決してできない。彼は現実にはいないが、この本をたくさんの人が読むことで、社会が良くなることを祈る。

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