ツイッター小説 140字の連載小説『サイコとシスター』④

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140字の連載小説『サイコとシスター』④

46.

「新ちゃん?どこ?全然見えない!」 突然、狼狽する美咲。 「何が違うの?」 《山瀬雄じゃない。》 「え?どういう事?」 《俺達の幼なじみは川瀨佑馬だよ。》 「えー?じゃあ貴方誰?」 『山瀬雄だ。』 「てか、何も見えない!」 何の話かと思う筈だ。またコイツの早合点か。

47.

危うくまたこの女のペースに乗せられる所だった。 似た名前の子がいると聞いた事はある。しかしあの女は……普通こんな間違いするか? 先程まで語っていた人物は川瀨佑馬という全く別の幼なじみ。 それを、まあ似てると言えば似た名前の俺と勘違いし、更正させ様としたって……。

48.

話を整理すると次の様になる。 美咲や新助の幼少期、川瀨佑馬なる幼なじみがいた。 同時期に接点はなかったが、同じコミュニティに俺も属していた。 佑馬の火の不始末により家は全焼、両親は亡くなり、彼だけが生き残る。心が壊れた佑馬。何故か美咲は佑馬と俺を人違いした。

49.

「本当にごめんなさい!雄くん。」 人違いだと分かっても呼び方は変わらない。 『マリアン、頼むよ。一体どういう思考回路してんだ。』 「街で貴方を見掛けて、何かピンと来て……思わず後付けちゃった。」 はにかんだ笑顔はなかなか可愛い。 「私ね……」 美咲が語り始めた。

50.

「私、幼少から自分の世界を持っていたの。」 二人は縁の幼稚園の園庭にいた。 「正直昔の話は忘れてた。でも街で見掛けた貴方に思い出を投影してしまったのね。無意識に。」 この娘は真面目なんだな。ふとそれを実感出来た。 いつの間にか降り出した雨も何故か気にならない。

51.

「何処かで会ったな、と思って貴方を調べているうちに隣の組にいじめっ子が居たのを思い出した。」 美咲も雨を気にしていない。 「女の子ばかり苛めて喜んでた。」 懐かしそうに微笑む。 「だから空想してみたの。もし貴方に意地悪されたらどうするか?」 雨は止みそうにない。

52.

「空想の世界で貴方は私の首を締め付ける。苦しい。このまま死ぬかもしれない。だけど……。」 そこで美咲は、俺に真っ直ぐな視線を向けた。 「そこで笑うの。何もかも受け入れて貴方に微笑み掛ける。そしたらどうするだろう?」 居た。朧気だった記憶が闇からその姿を現した。

53.

女の子の悲しむ顔が見たくて、俺はあらゆる手段で彼女達を苛めた。 だが一人だけ居た。何をしても笑っていた。追い詰められた俺はその子の首を締めた。 それでも笑顔を崩さないその子に俺は恐怖を覚えた。 そんな筈はない。記憶の彼方に閉じ込めたままたった今まで忘れていた。

54.

「思い出したのね?」 美咲は優しく問い掛ける。 「貴方はサイコパスなんかじゃない。本当は優しい人なのよ。」 溶け出してくる凍りついた想い。それに代わり胸を満たす温かい何か。 『思い出したよ。俺を止めてくれた子が確かにいた。その子のお陰で一線を越えずに済んだ。』

55.

聖母の様に微笑む美咲。 もう何も言わなくていい、と言わんばかり慈愛に満ちた表情だ。 『でもさ……。それ、お前じゃないだろ?』「え?」 またもや狼狽える美咲。 『また俺の事調べているうちに自分の世界に入り込んだんじゃないのか?』 「え?え?分かんない。あんた誰?」

56.

山瀬雄は昼過ぎの新幹線で車窓に流れる景色を眺めていた。 しかし頭には昨日の美咲との出来事。 あの後、美咲は自分の勘違いに照れながら、 「私、まだまだ修行が足りない。帰ってまた頑張る!」 そう言って去っていった。 本当にそそっかしい奴だな。でもそこに救われた……。

57.

《本当にこれで良かったのか?》 新助が不安げに尋ねる? 「うん。良かったのよ。雄くん、凄く元気になったし。」 美咲の表情は晴々している。 《でも俺、納得いかないよ。だって、あの時の少女は美咲だろ?》 口先を尖らせて新助は言う。 美咲は諭すように新助へ語り始めた。

58.

「だからいいの。もし私だって知ったら雄くん素直になれないでしょ?私は雄くんが立ち直ってくれればそれでいい。」 それでも納得いかない新助。 《あいつの事……好きな癖に。》 その後に美咲が見せた表情を新助は生涯忘れないと思った。 「好きだから……好きだからなの。」

59.

「雄くん、そろそろ着いたかな?」 西陽が少し勢いを増してきた。 《向こうには、本当に戻らないのか?》 もうすっかり観念した新助。 「うん。こっちに残る。この街にも修道院はあるしね。」 《じゃあ……俺にもチャンス到来かな?》 その声はトラックの騒音に掻き消された。

60.

“ 今日から警備員として働いてくれる山瀬雄君。皆さん宜しくね。” 年輩のシスターが俺を紹介してくれた。 目の前に数名のシスターが並び、その中に口をぽっかり開けてる奴が。 「……どうして?」 美咲は状況を飲み込めない様だ。 『お前みたいな奴、ほっとけないだろ?』

『ツイッター小説・サイコとシスター㊻~60』

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