140字の風景(ゾッとするお話)①
道化
ちょっと洗車に行ってくる。
そう妻に言い残し
自宅を後にする。
日曜日の午後
子供たちも外出している。
妻は不審に思わなかったか?
大丈夫、完璧だ。
ほんの束の間だが
彼女に会える。
車を走らせた。思いは募る。
後部座席の足元
黒い小さな塊
赤いランプが点滅していた。
視線
チャペルから
新郎新婦が出てくる。
祝福のアーチが出来た。
その中を幸せそうに
歩いてくる二人。
これから
新しい生活が待っている。
恒例のブーケトス。
花嫁の放るブーケに
人々の目が集まる。
ただ1人それを
見ていない者がいた。
視線の先では
新郎が笑っていた。
悪夢
泣きじゃくった状態で
目が覚めた。
またあの夢を見た。
相手の顔がわかる
寸前で目覚める。
十年前1日だけ
自分を誘拐した男。
記憶は鮮明にあるのに
顔だけが思い出せない。
今も未解決のままだ。
主治医がやってきた。
いつもの注射だった。
また記憶が遠ざかる。
執着
隣に越してきた夫婦が
挨拶にきた。
妻と玄関に向かう。
一瞬息を飲んだ。
目の前で女が微笑んでいる。
何故?
かつての悪夢がよみがえる。
もう充分ではないのか?
怪訝そうに妻が見つめる。
平静を装う。
「末永く、 よろしくお願いします。」
微笑んだまま女は呟いた。
清算
今日も男を待つ。
今日こそ本心を聞きたい。
もう3年も
こんな関係が続いている。
インターフォンが鳴る。
ドアを開け、招き入れる。
こちらを見ない男。
今日で終わりにしたい。
女の中で何かが弾けた。
とりあえず座って
とコーヒーを差し出す。
その日以降
男を見た者はいない。
仕事 (ふく子さん:仕事)
すっかり時の人
となったこの男。
年商数百億、いち会社員が
成り上がるには随分と
グレーなことも
やってきただろう。
今日も突然現れた
男の周りには人だかりが
メディアでの露出も
人気の後押しをする。
最中、突然倒れた男
そばに血だまりが。
仕事が無事に終わった。
妖女
営業マン3名
女性事務員と所長の私。
小さな営業所だ。
最近営業マンの
成績が落ちてきた。
所長として
原因を知る必要がある。
その日事務員が
残業を申し出た。
視線を感じ顔を上げると
妖しく見つめ返す彼女。
気付くとホテルの一室。
これが原因だったか。
ニアミス
帰り道を急いだ。
会社の飲み会 。
午前様は避けたい 。
背後を通り過ぎる足音。
かなり急いでいるようだ。
振り返るが見失った。
帰宅すると妻が
血相を変えている。
また小言かと
うんざりしていると
近所で殺人事件が。
発生直後で犯人は逃走中。
さっきの足音は?
背筋が寒くなった。
奈落
最終まで少し時間がある。
あと一杯だけ。
カウンター越しマスターに
同じもの、とグラスを傾ける。
今日は飲み過ぎかな。
何気なく横を向いた。
いつの間にか女性が。
話しかけようと、、
声がでない。
女がゆっくりこちらを向く。
断末魔の叫び。
最終電車は走りだした。
横恋慕
傘がない。
映画の約束をした彼女は
1時間前に退社したはずだ。
覚悟を決めて走り出した瞬間
差し出された傘に
持ち主を振り返る。
「先輩、残業ですよ。」
彼女の後輩だ。
「代わりに行くようにって」
チケットを片手に微笑む。
困惑する私の腕に
そっと後輩は手を絡める。
目撃者
弾みで死なせた。
打ち所が悪かっただけ。
だが誰にも見られていない。
発見されても事故死で
処理されるはずだ。
3日後の社内に
あの男の後任がやってきた。
「今回は急なことで。」
にやけた顔をこちらに向け
「あのことは 誰にも言いませんので。」
全身が凍りついた。
本心
傷心の親友と小学校の
タイムカプセルを開けに。
夫の浮気で家庭崩壊
離婚手続きも
進んでいるようだ。
「ゆかり!元気出しなよ!」
「うん。今日は楽しむ。」
いよいよ掘り起こされた。
回りで歓声が上がる。
ゆかりも夢中だ。
私のもあった。
その紙には “ゆかり死ね”
追手
必死で逃げ続けた。
すぐ横を路線バスが
通り過ぎる。
バス停に止まった所を
素早く乗り込んだ。
やったぞ! 助かったな。
行く先を確認する。
極楽浄土?
まさかこれは!
再びバス停に止まる。
白装束の連中が
乗り込みこちらに来る。
助けてくれ!
バスは走り続ける。
契り
今日は私の誕生日。
親戚やお友達が
集まってくれた。
おめでとう!
みんな口々に
祝いの言葉をくれる。
食事、歓談が
一通り終わった頃
大親友の女の子が
特別な贈り物があると言う。
左手首を気にしながら
満面の笑みで手渡された。
箱を開けると
人間の掌が入っていた。
幻影
目の前が霞む。
目を凝らすと2つの人影。
一人は夫か?
もう一人は影にしか見えない。
その影が夫を切り付ける。
恐怖で声が出ない。
体中の力を振り絞って
精一杯の声で叫ぶ。
「奥さん!奥さん!」
制服の警官が呼んでいる。
私の手に血塗れの
ナイフが握られていた。
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