ツイッター小説 140字の連載小説『サイコとシスター』①

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140字の連載小説『サイコとシスター』①

1.

「生き物を大切にしましょう。」 「お花が綺麗ですね。」 「今年のオリンピック感動した。」 大人達が口を揃えて言った。 俺にはさっぱり理解出来なかった。 何故、生き物を大切に? 花の何が綺麗なのか? 感動ってなんだ? 成長するに連れて、それは自分が特殊だからと気付く。

2.

幼少期から女の子にモテた。 周りにはいつも女子がいる。 その女の子達が時折泣き出すと、俺は異常な興奮を覚えた。 女に興味は無いが、泣き顔にはこの上ないエクスタシーを感じた。 この辺りから既にサイコパスとしての血が騒ぎだしていた。 やはり、生まれながらにして……。

3.

思春期に入っても俺の特性は変わらなかった。 相変わらず女の泣き顔に執着する日々。それを得る為の方法も狡猾になっていく。 女子に近づいては優しくし、最大限に惚れさせて別れる様に仕向ける。 そんな時に彼女達の見せる表情は、何物にも代えがたい。 それ以外に興味は無い。

4.

そんな状態のまま成人を迎えた。 この頃には女の泣き顔にも飽きがきていた。 サイコパスとは詰まらない。趣味嗜好に代替えがきかない。何かもっと刺激のある事は無いか? いっそ何処かに消えてしまおう。 そう考えていた時、俺の人生を根底から覆したあの女と出会う事になる。

5.

その日の朝、俺は牛丼屋に入った。カウンターは疎らで中央に座った。 出されたお茶を一口啜った後、何気なく左を向くと、端に奇妙な女が座っている。 黒のワンピースに似た、ただ裾は足元まで伸びている。 頭には、頭巾の様な見慣れぬ帽子。後に、その姿はシスターだと知った。

6.

女はカウンターの端で、既に提供された牛丼を前に祈りのポーズだ。 何かの信仰か。宗教によっては食べる前に祈るというのは聞いた事がある。勿論俺には到底理解出来ない。 相変わらず女は祈りを止めようとしない。 堪り兼ねた店員が女に問い掛ける。 “お客様、どうされました?”

7.

問い掛けられた女は漸く顔を上げ、 「これは食べても宜しいのでしょうか?」 “え?あ、はい。どうぞお召し上がりください。” 店員は戸惑いながらもそう答えた。 「本当に?でもこれは牛さんを殺生して作った物。それを食べるというのは……。」 どうやらかなり面倒な女らしい。

8.

普段なら相手にしない。だが、 『あんたさ。何でこの店に入ったの?』 女はそれを待っていた様に 「お腹が空いたので入りました!」 『そうだろ?早く食べないと冷めるよ。もう冷めてるか。』 女はまだ手を付けない。 「食事の度に葛藤するのです。これは許される事なのかと。」

9.

予想を越えた地雷女だった。 食事の度にこんな事を……。声を掛けたのを心底後悔した。 女はまだブツブツ言っている。その隙に俺は静かに店を出た。 何か叫んだ様にも思えたが気になどしない。 慣れない事をするもんじゃないな。しかしこれで終わらない不吉な予感が頭を掠めた。

10.

二度目の再会は直ぐにやってきた。 今度は会社帰りの夕食時。たこ焼き屋の前にあるベンチに女は座っていた。たこ焼きの舟を抱えそれをじっと見詰めている。 声を掛けようか……?いやここは素通りだろう。もう関わらない。 「あ!貴方は?」 思惑は外れ、女から声が掛かった。

11.

「もうこれは運命ですね。」 女はどっぷり入り込んでいる。 「この私の悩みを解決出来るのは、貴方に違いない!」 『あのさ。逆じゃないの?あんたが解決すんだろ?シスターなんだから。』 「え?あ!それは……。」 『もういいから喰えよ。』 しかし頑として首を振らない。

12.

非常に興味深い。 今まで欲深いやつは五万と見てきた。しかし彼女のようにそこに葛藤する人間を俺は見た事がない。 次のターゲットはこいつだ。 『どうしてそんなに拘る?食べないとあんたが死ぬんだぞ。』 「分かっています。でも食事をしようとすると脳裏に浮かぶのです。」

13.

「動物達の悲痛な叫びが……。」 女は涙ながらに語った。 『でもよ。結局、最後は喰うんだろ?』 「……そうなんですぅ!食べちゃうんですぅ!」 一層泣き声は増す。 『もう無理すんなよ。仕方ない事だ。』 「そういう訳にはいきません!」 女は急に居住まいを正して言った。

14.

「母と約束したんです。立派なシスターになるって。」 女は再び悦に浸り始めた。 無理だろ、心で呆れた俺はそこで一つ閃いた。 『俺さ、この街を出るんだ。一緒に付いてくるか?』 「え?それは……プロポーズ?」 女はモジモジしている。 『シスターの修行として、どうだ?』

15.

女はまだモジモジしながら、 「それは……お部屋とかにも……二人きりで?」 ニヤニヤ、ぶつぶつ、薄気味悪い。 『どうする?』 「教会にも許可取らないと……。」 煮え切らない。 『じゃあ、止めよう。』 「あ!待って下さい!……行きます!」 こうして奇妙な旅は始まった。

『ツイッター小説・サイコとシスター、①~⑮』

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