140字の風景(ゾッとするお話)②
呆然
時刻は20時。
みんな既に退社している。
正面玄関から
残業組も消えていく。
そんな中で自分は
足取りが軽やかだ。
これから部長との特別な時間。
不倫という形だか
奥さんとは冷えきっている
いづれは、、。
現実に戻ると目の前を
部長と後輩が
寄り添い通り過ぎた。
執愛
花屋でのパートも
3ヶ月が過ぎた。
保育園送迎に合わせて
勤務出来る。
店内に一人の男性。
最近よく来るが
何も買わず帰っていく。
しかし今日は赤い
薔薇の花束を購入した。
大切な人に送るそうだ。
いけない! お迎えが。
何とか間に合い帰宅した。
玄関前に薔薇の花束が。
共犯
間違いであって欲しい。
車のウィンドウ越しに
横目で通りを見つめる。
前方から腕を組むカップル。
男は40代、見覚えはない。
女は、、、妻だった。
あんな笑顔
しばらく見ていない。
そのままホテル街に
消えて行った。
「行きましょうか?」
俺にはこの人がいる。
狂愛
私の周りで事故が続く。
いや事故じゃない。
あいつの仕業だ。
私にぶつかった男
は階段から転落。
私に注意した先輩が
車に轢かれた。
あの男に少し
優しくしただけだ。
「貴女は恩人。貴女を攻撃するものは排除します。」
口元にのみ笑みを浮かべ
あいつはそう呟いた。
サイコパス
マンションの
5階の角部屋に灯りが点る。
殺人事件の容疑者として
県警が追っている人物。
若き20代の女性。
彼女がなぜ疑われるのか?
10年前の猟奇殺人でも
最後まで疑われたが
確証は得られなかった。
胸でスマホが震える。
新たな殺人の報告。
これも計算ずくか。
歪愛
最近、私を悩ませている
ストーカーの影。
常に誰かの視線を感じる。
私の尊敬する同じ課の
課長にも相談した。
まもなく50を迎える
頼りになる男性だ。
しばらく行き帰りに
付き添ってくれると言う。
安心なはずだった。
しかし見えない視線が
近づいたような気がする。
義母
「今年もよろしくね!」
恒例となった
旦那の実家への帰省。
今年も義母が
明るく迎えてくれた。
「さあ、さあ、座って!」
食卓テーブルに促す。
やはり今年も。
私の席にだけ
皿もグラスもない。
義母がわざとらしく
「あら!ごめんなさい!」
目は笑っていなかった。
狂気
あの人はどう思っているの?
今週も聞けなかった。
その前の週も。
思いだけがどんどん募る。
入社も同じ、部署も同じ。
同じ沿線で通勤もしている。
これだけの共通点がありながら
未だに話すら出来ないのは
もしかしたら
あの女のせいかもしれない。
場合によっては、、。
幻聴
冬の登山では細心の注意を
払わなければならない。
だが冬山は熟練者達をも
時に欺いてしまう。
好天が嘘のように
辺りがざわめき出した。
風が強まり雪も散らつく。
「おーい! 誰かいるか!」
やまびこが無情に返る。
もう一度叫ぶ。
『無駄だよ。』
耳元でこだまする。
強か
物分かりの良い娘で助かった。
嫁が騒ぎ出すと面倒だからな。
今の地位もお義父さんの
影響力があればこそ。
しかし手切れ金もいらないとは
俺はツイている。
部長室のドアがノックされた。
「失礼します!専務がお呼びです。」
『専務? 要件は?』
「セクハラの件でと。」
疑念
久しぶりに夫婦で食事に。
炉端焼きの美味しいお店だ。
カウンターに座った。
炭火の匂いが食欲をそそる。
新しい客が入ってきた。
“ あれ? こんばんは!”
知らない顔だ。
妻が「タクヤの先生。」
息子の担任らしい。
一瞬、強張った妻の顔に
私は気付かぬフリをした。
思惑
送別会も兼ねて集まる
同じ部署の10名。
主役は社内で評判の
いわゆるイケメン社員。
社外での評価も高く
本社へ栄転が決まった。
その隣に
これまた美女と名高い
社内のマドンナ。
結婚も間近と噂されている。
私は女を見つめ、
ほくそ笑んだ。
“ 貴女だけと思ってる? ”
彼氏
親友から連絡が。
彼氏を紹介したいと。
予定を合わせ今日となる。
彼との約束は日時を変更した。
カメラマンで比較的融通が利く。
待ち合わせはカフェ。
先に着いたが彼女も直ぐに
噂の彼氏とやってきた。
「この人よ。カメラマンをやっているの。」
… “ うん。知ってる。”
安否
旧友から連絡があった。
唐突に住所を教えられ
普段使わない路線電車に乗る。
車窓から見える景色は
どれも新鮮だ。
次の駅で乗ってきた男が
何故か私の隣に座った。
他に席は空いているのだが…。
“ あいつ、無事ならいいですね。”
次の駅に着く間際
そう言って姿を消した。
背筋に冷たいものが伝う。
ストーカー
“ おはよう! ダーリン ”
付き合って3ヶ月
今が一番良い時かもしれない。
ストーカーに悩む俺を
励まし支えてくれた。
本当に感謝している。
出掛けに郵便受けを覗く。
封書が一通。
差出人は書かれていない。
中を確かめるとあの女からだった。
“ おはよう! ダーリン!”
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