140字の風景(恋愛系)③
自惚れ
「私、結婚してみた。」
久しいラインの返事が
それだった。
何となくお互いにそれなりな
そんな気分は
一瞬で消え去った。
動揺を抑えて 『おめでとう。』
と返信したが
心はここにあらず。
何度も過ごした
二人の夜に思いを馳せる。
「ありがとう。」
それには答えなかった。
昇華
思いが伝わらず苛立ち
それでも追い続けた。
想いが伝わった後
千夜、君と語り明かした。
それでもぶつかり合う気持ちに
何度もすがり付き
離されていく。
放り出された思いは
どこに昇華していくのか、、
気付くと朝焼けの空が
眼前に拡がっていく。
新しい時を刻み始める。
本心
『飲み過ぎだぞ!』
「しゅいません…」
「もう一杯だけ!」
どうやら失恋したらしい。
5年間追い続け
10回目の告白。
本当に無理と突き放された。
恋多き女でその間も
あっちこっちフラフラ。
ダメだ!寝てる。
『もう帰るぞ!』
「あんたのことも好きなんだよね…。」
リバイバル
ポップコーン片手に
彼がキョロキョロしている。
手を振って居場所を伝えた。
まもなく上映開始。
私がどうしても
見たかった映画。
10年振りの
リバイバルだった。
未来へタイムスリップする
内容に二人の将来を
語り合った。
結婚して子供は二人…
ごめん…相手が変わって。
愛しき君
ビールで乾杯した後、
勢いよく喋り出した。
勤め先で色々あったらしい。
最後には決まって
” 次同じことあったら辞める ”
もう5年以上言い続けている。
そんな彼女は
俺の話を聞かない。
” 今日静かだね “
” 何かあったらいつでも言って!”
それでもいいんだ。
君が幸せなら。
臆病
今日こそは。
今朝もあの娘の姿を探す。
一緒の車両に乗り
声を掛けるチャンスを窺う。
が、あと少しの勇気が…。
ああ、次の駅に着いてしまう。
今日もダメかと思っていると
あの娘がこちらへ。
僕の手を取り、
「じれったいな。男でしょ?」
そう言って車外へ連れ出した。
悲別
海帰りの車中、
二人は一言も話さなかった。
夏の暑さと共に訪れた恋は
その味も分からぬまま
終わりを迎えようとしている。
車は路肩に寄り止まった。
「もう会えないと思います。」
『・・・・。』
ドアを開け彼女は背中で言った。
『またいつか、どこかで。』
思慕
僕の好きな人は
とても優しい。
いつでも周りを
気遣ってくれる。
僕の好きな人は
とても真面目だ。
誰よりも遅くまで残り
仕事をやり遂げる。
僕の好きな人は
僕ではない誰かを愛している。
誰よりも一途に。
僕はそんな彼女を見守りたい。
例え叶わぬ恋だとしても。
門出
あの人の転勤が決まった。
昨年、新入社員として
配属された私の教育係。
熱心なその姿勢に
いつの間にか心惹かれた。
正直、動揺している。
このまま思いも告げず
離れてしまうのか。
悶々としたまま転勤当日
デスクに紙片が。
“ 頑張れよ ”
こういう所に惚れたのかも。
酔興
何軒か呑み歩き
最後はカラオケに流れ着いた。
酔いの回った二人は
何がおかしいのか笑い続けた。
彼女がひとしきり歌った後
リクエストされ熱唱。
最高潮の彼女は流れで
俺の頬を両手で掴んだ。
暫し見つめ合い
彼女が離そうとした
手を引き寄せ
そっと唇を重ねた。
決別
約束の時間まで後少し。
最後に思い出の場所でと
この店とは告げずに送信した。
ここ最近の態度からも
気持ちの変化は明らか。
店のドアが開き
客が入ってくる。
あいつではなかった。
半ば諦めてワインの
おかわりを注文する。
店の外では男が一人
立ち去ろうとしていた。
奔放
“ 明日は遅れないでね!”
元カノからライン。
誰かと間違っているな。
どうしようか迷ったが
《 間違ってますよ。》
すると直ぐに、
“ ごめん、ごめん! ”
と返ってきた。続けて
“ ところで元気? ”
《 元気な訳ないだろ。》
“ そうね。”
無神経な所は相変わらずだ。
あの子
桜の下に立っていたあの子。
セーラー服がよく似合っていた。
登校時に見掛けた他校の生徒
いつも文庫本を読んでいた。
誰を待っていたのか?
3年の春を迎えると共に
姿も消えた。
就職か? 進学か?
この街を離れたのかな?
この木の側を通ると思い出す。
淡い若き日の記憶。
献身
“ また明日な! ”
そう言って彼女と別れた。
ごめん
もう明日からは会えない。
ここを出ていくつもりだ。
風来坊の俺を受け入れた街。
中でも彼女は一番の理解者だ。
これ以上迷惑は掛けられない。
次の朝、始発に乗り込んだ。
それを見送る一人の女性。
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