140字の風景(恋愛系)④
決壊
切り出したのは
どっちだったろう。
“ もう別れようか。”
この数ヶ月、たぶんお互いが
何度も考えた言葉だと思う。
やっと言えたのか?
とうとう言ってしまったのか?
すれ違いの日々はいつしか
二人の関係さえも曖昧にした。
ただ一つだけ言えるのは、
これはまだ序曲に過ぎない。
通り雨
急に降ってきたので
駐輪場の屋根を借りた。
予報に反していた為、傘はない。
暫く雨宿りだ。
せっかく休講になったのに。
「もう、最悪!」
女の子が1人やってきた。
彼女のブラウスは
雨で透けている。
見とれていると
「嫌らしいな!」
悪戯っぽく笑う。
ヤバい! バレてた 💦
悲恋
上空ではまだ
やつらが旋回している。
連日の爆撃は激しく
この街を焼き尽くした。
“ 1人でも多くの人を救いたいの。貴方も必ず生きてね。”
彼女の口癖だった。
無惨に破壊された病院跡に
横たわる人影が。
遣りきれない慟哭が口を衝く。
『君が生きなきゃ、意味ないだろ!』
幼馴染
「あれ? かずちゃん? 」
街中でいきなり声が掛かる。
年齢は同じ高校生くらいか?
『え? どこかで会いました?』
怪訝そうに聞き返す私に
「和美ちゃんでしょ? 全く変わらないよね、幼稚園から。」
まじまじと見詰め返すと
何となく面影が。
『もしかして、しんちゃん?』
初恋
「誰?」
目の前でポカンとする少女。
おさげ髪に赤いスカート
公営住宅の玄関先で遊んでいた。
『幼稚園で一緒の… 』
「あ!◯◯君か! 遊ぼ!」
日が暮れて彼女の母親が帰宅。
晩御飯をご馳走になる。
“ 遠い所をよく来られたね。”
微笑みながら
私の母へ連絡してくれた。
貴女
『もう行くのか?』
「彼の転勤が決まって。明日には発つよ。」
『そうか。元気で。』
「色々… ありがとね。」
『うん。幸せにな。』
「幸せになれるかな?」
『あいつとなら心配ない。』
「貴方も… 幸せにね。」
『そうだな。』
そこで別れた。
“ 暫くは一人で歩くよ。 ”
失意
“ ずっと好きでした!付き合ってください。”
そんな告白から
始まった二人の恋。
夏の海で日が
暮れるまで寄り添った。
秋の終わりには
クリスマスの予定を
目を輝かせて語り合った。
二人の未来に
何の不安もなかった。
今は川の流れを見つめ
水面に彼女の面影を探す。
黄昏
夕暮れが近づいても
吹く風は心地よい。
南の島はまもなく夏を迎える。
砂浜に腰掛けて
寄り添う二人には
時の流れなど無縁ではある。
真っ赤に空を染める夕陽が
水平線に消えようとする頃
ふと切なさを覚え、
互いに見つめ合う。
瞳を探り合い
どちらともなく唇を寄せる。
恋敵
間違いない。あの感じ。
絶対そうだと思う。
あいつも彼女のこと…。
目立たない彼女の魅力に
気付いているのは
俺だけと思っていた。
見る目はあるようだな。
一度話をしてみるか。
丁度、あいつが退社する。
△△さんの件で
話があると切り出し
『物憂い横顔に惚れた?』
温度差
今日も1日データ処理に追われ
仕事に明け暮れた。
無心で画面に向かう。
漸く終わりが近づいた頃
メール受信に気付く。
予感めいたものがあり
やや躊躇したが結局開いた。
“ 今日も泊まってくだろ?”
やはりそうだった。
[どちらにお送りですか?]
もう終わってるのに。
風鈴
…チリン……チリン……。
夕風に吹かれながら
窓辺で微睡んでしまった。
真夏の日射しが漸く鳴りを潜め
夜のしじまが訪れる。
相変わらず心地よい風と共に
遠くで微かに聞こえる鈴の音。
“ 帰ったよ…。”
懐かしいあの人の声…。
これは夢なの? …チリン…。チリン…。
すれ違い
今日こそは、二人の関係を。
私は貴方が好きだし
貴方もたぶん私を……。
このままでいいと
思ったこともある。
だけど苦しい。
電車を降りて歩き出すと
貴方の後ろ姿が見えた。
『おはよう!』
振り返った貴方の顔は
今までにないものだった。
「俺…… 彼女出来た……。」
夏花
夕闇は、
やがて辺りに夜の帳を降ろす。
カーテン越しに弾けた閃光が
夏の切なさを連れてくる。
やや遅れて響き渡る爆音は
胸の高鳴りと重なった。
窓外に覗く鮮やかな花達は
忘れていたあの日へと誘う。
あと少し早かったら、
彼女に逢えた事を
随分、後になって知った。
感傷
懐かしい歌が店内に流れる。
恐らく2度と
聴く事は無いと思っていた。
互いに傷つけ憎み合った。
その筈なのに
この曲を聴くと思い出すのは
楽しかった事ばかり。
そんな事を思いながら
気付くと頬を伝う涙。
時を経て
優しい気持ちになれたのは
感謝すべきかもしれない。
※ 被害者なのに何故?
↓
※ 心の闇の深さは……。
↓
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