ミニ小説 傑作集 およそ2000文字程度に、長短合わせた内容を盛り込んだ小説集

スポンサーリンク
スポンサーリンク




スポンサーリンク
スポンサーリンク




ミニ小説 傑作(日常に潜む心の闇)

均衡の崩れ

所謂、新興住宅街に引っ越して

既に1年の時が過ぎた。

近隣の居住者は親切な人が多く

住み心地は最高だった。

まだ子供のいない我が家は

溶け込めるのか不安だったが

そんな心配は杞憂だったようだ。

特に隣家の桑原夫妻は

年齢が近いこともあり、昔からの

友人のように接してくれた。

同じく子供がいない事も

大きく影響していたに違いない。

気温も上がり、

良い季節になってきたので

庭でバーベキューでもやろう!

夫が桑原夫妻を誘い

本日実施されることが決まった。

もう一つ、

桑原夫人の “おめでた” も

開催の大きな理由だった。

結婚10年目での朗報である。

『おめでとう!良かったわね!』

「有難う。お先にごめんね。」

『ううん。気にしないで。今日は楽しみましょう!』

『まずは乾杯ね!あなたお願い!』

四人でグラスを翳す。

” 乾杯!”

一気に飲み干した。

三人はビールで夫人はジュースだ。

歓談が始まった。

『本当に良かったわ。』

私はそう言いながら

夫人のグラスに 

”ある粉末” を溶かした。

不揃いな友情

山頂まであと少し。

南アルプスの難所と言われる

この山の制覇にあと少しだ。

「もう少しだな。」

今まで公私共に一緒に歩いてきた

友人の久保が感慨深げに言う。

学生時代は親友。

社会に出てからは一緒に

会社を立ち上げ

常に二人三脚でやってきた。

彼は副社長として

社長の私を支えてくれたのだ。

『そうだな。頑張ろう。』

仕事上では、上司と部下だが

今は友人に戻り、暫しの休息だ。

『久保!いつも感謝している。』

「なんだよ。改まって。」

照れくさそうに先を急ぐ。

さあ、最後の難関。

急斜面が続く。

ここからはピッケルを使って

登って行くことになる。

久保が先に、私が後に続く。

一つ一つ安全を確認しながら

確実に上を目指した。

後2、3歩という所で

私のピッケルが外れた。

左手で刺した場所が崩れたのだ。

右手一本で支える形になったが

そう長くは持たない。

『久保!』

「大丈夫か?」

しかしそう言った彼の眼は

冷ややかだった。

『助けてくれ!』

「今までご苦労さん。」

その言葉を聞きながら

私は崖下へ落下していった。

届くはずだった通知

“今度こそ、頑張ろうな!”

就職を控え、

4年間暮らした下宿で

改めて二人で決意をする。

何とか在学中に決めたかったが

昨今の社会情勢もあり

願いは叶わなかった。

「何とか大家さんに3月一杯まで伸ばして貰った。」

友人が照れくさそうに言う。

『すまない。』

「お互い様だろ。」

本当にいいやつだ。

新入生も入居してくる。

ゆっくりもしていられない。

「最後の一つ。二人とも合格してればいいな。」

卒業前に、最後の望みで受けた

2次募集の面接。

二人とも手応えはあった。

『ああ。きっと大丈夫だ。』

発表は今日の午後。

合格者には直接、

郵送で送られてくる。

昼食を済ませ

二人でその時を待つ。

窓の外から郵便バイクの音が。

「来たな。お前見て来てくれよ。」

『マジか。』

階段を降り、

共用の郵便受けへ向かう。

封書が一通。

差出人を確認する。

応募した会社だ。

受取人は…。やつ、だった。

階段を登り、部屋へ戻る。

「どうだった?」

残念そうに下を向き、俺は…

『無かった。二人とも駄目だったよ。』

「そうか…。また次頑張ろう!」

励ましてくれる友人。

俺は背中でやつの

合格通知を握り潰した。

曲がりくねった関係

『ねえ、志穂。聞いてくれる?』

彼氏との喧嘩が続き誰かに

愚痴を聞いて欲しかったのだ。

「どうしたの?玲子。貴女らしくないわね。」

学生時代からの

付き合いである志穂は

私が最も信頼できる親友だ。

私が普通ではないことが

すぐに分かったらしい。

『あいつね。他に女がいるみたいなの?』

「健司君に?まさか?」

『いや。間違いないと思う。あいつの部屋に知らない食器があったの。』

「自分で買ったんでしょう?」

『そんなはずない!だっていつもそういうの私が買ってたんだから!』

私の勢いに押されたのか

志穂が息を飲むのがわかった。

「玲子。落ち着いて。健司君に確認したの?全部想像でしょう?」

流石に私の性格を

よく分かっている。

『それは…。』

「ね!貴女の勘違いかもしれないじゃない。」

それは確かにそうかもしれない。

見慣れぬ食器を見て

思わずカッとしてしまった。

健司にちゃんと聞いてみないと。

『それもそうね。分かった、そうしてみる。志穂、ありがとう。』

「仲良く、ね!」

そう言って、電話は切れた。

◆◆◆

次の日、会社帰りに真っすぐ

健司の部屋に向かった。

インターフォンを鳴らすと

” ちょ、ちょっと待ってくれるか?”

明らかに動揺している。

『ちょっと健司!何してるの?』

” いま、今開けるから!”

オートロックが

解除されるのを待って

私はエレベーターで

彼の部屋を目指す。

目的の階に着き

彼の部屋のドアを開けて

中に走り込んだ。

部屋の真ん中で呆然とする彼。

『健司!何やってたの?』

” いや、別に…。”

そう言い、部屋の隅を気にする。

視線の先にはクローゼットが

私はそこに進みドアを開けた。

『…志穂。」

クローゼットの中で

志穂が膝を抱えていた。

「あ~あ!見つかっちゃった。」

笑いながら中から出てくる。

『志穂。どういうこと?』

私は訳が分からず

そう言うのがやっとだった。

「健司!説明してあげてよ!この鈍い女に!」

この瞬間、

自分がピエロであることに

やっと気付いた。

「関連記事」

不思議な世界に紛れ込んで…。

    ↓

ツイッター小説 140字の風景(連載)
140字の風景(連載コーナー)④ 新作発表 1. “ さあ、ゲームの始まりです!” 店内から出てきた男が 高らかに宣言した。 本日は国民的人気の 新作ゲームが発売予定。 店先の予約客が その時を待ち侘びていた。 矢先の出来事だった。 《どう...

貴女の別の顔が…。

    ↓

ミニ小説 傑作集 およそ2000文字程度に、長短合わせた内容を盛り込んだ小説集
ミニ小説 傑作(大人の秘め事) 激愛 夕方の5時で パートの仕事は終わる。 お疲れ様! 店長がこちらを見ず 声を掛けた。 更衣室に向かい 着替えを始める。 突然、後ろから 抱きすくめられる。 振り返ることなく その腕に右手を添えた。 「誰か...

コメント

タイトルとURLをコピーしました