桜木紫乃 霧ウラル ネタバレなし!愛した男は美しく危険な男だった。それでも…。

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桜木紫乃 霧ウラル 

ミクタギです!

野付のつけ半島は道東の外れ。

そこから僅か16kmに望むは

北方領土・国後島。

近くて遠いその島は

見るものに ”そこはかとない”

哀愁を運んでくる。

それは二度と戻ることのない

あの日への想いに似ている。

作者紹介

桜木紫乃

北海道釧路市出身

2002年「雪虫」で

第82回オール読物新人賞受賞

2013年「ラブレス」で

第19回島清恋愛文学賞受賞

同年、「ホテルローヤル」で

第149回直木賞受賞

代表作

「起終点駅(ターミナル)」

「星々たち」「ブルース」

本編あらすじ

河之辺珠生かわのべ たまき・・・河之辺水産 次女

相羽重之・・・水産界に携わる裏社会の男

河之辺智鶴・・・ 河之辺水産 長女

河之辺早苗・・・ 河之辺水産 三女

木村正・・・相羽の右腕

保田健司・・・相羽の舎弟

河之辺珠生は 、

根室の河之辺水産・次女として

生まれるが、家庭の水が合わず

15歳にして家を出る。

その後、叔母の元で芸者として働く。

そこで別の水産会社社長に連れられ

相羽重之がやってくる。

一目で惹かれた珠生の

一方的な想いながら逢瀬を重ねる。

やがて彼は恩義のある社長のため

懲役に服すことを決意する。

その夜、二人は相羽の故郷・

国後島が見える野付半島に向かった。

そこで彼の生い立ちを知った。

珠生は彼の言葉を待たず

出所を待つことを告げる。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

出所後も相羽の

気持ちがはっきりしない中

二人は小路での生活を始める。

しかし家にいることはほとんどない。

どうやら新しい事業立ち上げのため

奔走しているようだ。

やがて相羽は、

岬に自分の城を建てる。

そこは相羽組として

再スタートの場所だ。

それを機に相羽は

珠生に妻として一緒に

来て欲しいことを告げる。

相羽組上階での生活が始まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、長女・智鶴は、

地元の名士で政治家を目指す男との

結婚が決まった。

三女・早苗は、必然的に

河之辺家を引き継がねばならない。

三姉妹はそれぞれの

道を歩むかに思えた。

しかし長女・智鶴は

夫の勢力拡大のため

珠生の夫・相羽を利用し

早苗を地元の金貸しの

元へ嫁がせようとする。

それからは少しずつ

裏で手を引く智鶴によって

物事が暗転し始める。

相羽も用心深い男なので

簡単に利用されるつもりはない。

しかし珠生の不安は募る。

そんな時、

珠生は相羽が若い女の家から

出てくるのを見かけてしまう。

心にさざ波が立つ。

本編見どころ

河之辺珠生・・・夫・相羽を愛し続ける。

相羽重之・・・珠生の姉の夫と勢力拡大を夢見る。

河之辺智鶴・・・夫を含め影で全てを操り権力を握ろうとする。

河之辺早苗・・・自らの道を歩もうとするも智鶴に阻止される。

相羽の危険を察知した珠生は

智鶴の動きを警戒する。

木村・保田も

必死で相羽を守ろうとする。

いよいよ智鶴の夫の

選挙出馬が決まり

慌ただしくなる中

珠生は相羽が愛人に

子を産ませていたことを知る。

いつかの小路で見た女だ。

ことごとく裏目に出る現実。

珠生は意を決することになる。

読後感

その昔、野付半島の先端に 

”キラク” という幻の街があった。

北方領土での交易で栄えた。

国後島を故郷にもつ相羽も

幻のような男だった。

何を考えているのかも

どこへ向かって行くのかも

全くわからない。

そんな相羽を愛した珠生も

自分の心根をよく理解して

いなかったのかもしれない。

二人で夜、

霧の中を向かった野付半島。

何にも見えない中

手探りで相羽の帰りを

待つことを決めた。

その時から

珠生は常に手探りで

相羽を追いかけ続けて

来たのではないか?

それでも時折垣間見える

相羽の残像を頼りに

彼を愛し続ける珠生の

女っぷりが粋である。

二人の結末は

本編を見届けて欲しい。

信頼していた姉・智鶴の変遷は

三姉妹を翻弄し続けることになる。

この三姉妹の結末も気になる。

それぞれに芯のあるいい女達だ。

彼女らの思いも

どこへ向かって行くのか?

二つの焦点を元に

本編をめくって欲しい。

きっとウラルに彷徨う事となる。

読者の感想

人は自分の生き方に対して肚を決めた瞬間から、本当の強さを発揮するのかも知れないなとこの三姉妹の姿を通して思った。その境地に至る過程には悲しみとか諦めとかいろんな感情が渦巻いているんだろうけど、そうゆうものを全て吹っ切った時の女の図太さ・強さみたいなものを感じた。裕福な親の庇護のもと、みんなで姉のピアノの音色に耳を傾けていた穏やかな娘時代から、嫁ぎ先での立場、思惑、利権のために利用し利用され、腹を探り合う様になってしまうのはさすがに悲しいなと思ってしまった私はアマちゃんなのでしょうね。

道東を想像するだけで何となく寒くて寂しい印象を抱いてしまいますが、物語の雰囲気もまさにそのような感じでした。三姉妹のそれぞれの思いと深慮遠謀そして繰り広げられる戦い。どこまでが本気でどこまでが仕掛けなのか。すべては霧の中に隠されてしまうのでしょうか。「近くにいなくてはその遠さもわからないほどの薄い縁、この不条理は生まれ育った土地に流れる血」という文章がなぜか頭から離れません。

うーん。状況や時代の変化より水面下に重きを置きすぎているわりに心情はあまりにも同じところをグルグル回るばかりで一体何を読んだの私は、と苛立つほど。ラブレスが好みだったからこれも面白いかなと思ったけれど。たいした出来事が起こらない市井ものは好きでもこれは違う。

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