140字の風景(感動系)①
誕生
走る 走る 走る!
こんなに走ったのは
学生の頃だっけ?
産まれる。俺の子が。
予定日からはもう
1週間も過ぎている。
その妻が産気付いた。
病院に着き
階段を駆け上がり病室へ。
いた! 妻が抱いている。
看護師さんと共に
俺も覗き込む。
光輝く天使がそこにはいた。
愛猫
玄関のドアを開けると
飼い猫のユキがやってきた。
いつも通り
スリスリと甘えてくる。
この瞬間が何とも幸せだ。
今日は会社で失敗した。
上司にも怒られた。
ダメだな、俺。
ソファーに座ると
ユキも寄ってきて
こっちを見る。
また明日頑張ろう!
傍らでユキが微笑む。
別離
目の前に
もう動くことのない父。
あっけなく逝ってしまった。
どうしようもない人だった。
八方美人で
誰にでもいい顔をする。
だから足元もすくわれた。
母も随分苦労した。
父の年齢を追い越して
改めて思う。
父の歩いてきた道を。
『おやじ!
もっと話したかったな。』
慈愛
働いて働いて
いつ寝ているのかも
わからなかった。
父が亡くなり身を粉にして
私達を育ててくれた。
その母に恩返しする。
今日は集大成。
何としてもパスする。
遅れないよう会場へと急ぐ。
今日は暑い。
ハンカチをと
ポケットを探る。
しっかりね!
母の真心を見つけた。
愛娘
卒業証書が手渡される。
まっすぐ前を向いて
緊張した面持ちだ。
大きくなったな。
パパと呼びよちよち歩く姿が
思い出される。
成長した娘を何度想像したか。
壇上からゆっくり降りてくる。
目が合った。
暫し時が止まる。
僅かに微笑んだ。
それで充分。
そっと会場を後にする。
遺言
窓を抜け
爽やかな風が入り込む。
いい季節になった。
これから暑くなり
やがてやって来る秋を
迎えることが出来るだろうか?
思い残すことはない。
好きなように生きてきた。
でもたった一つ
後悔していることがある。
あの人にちゃんと
別れを言えなかった。
それだけを。
追悼
ずっと一緒に
いられると思った。
僅か2年弱
少し早すぎはしないかい?
神様は意地悪だね。
きっと君が
余りにもいい子だから
早くこっちに来て
手伝って欲しいと
思ったのかな?
駆け出しの私達を
たくさん励まし
癒してくれましたね。
ありがとうトム。
また向こうでね。
母娘
さっきから
地面とにらめっこ。
何か面白いものでも
あるのかしら。
2歳を迎えた娘を
愛しそうに見つめる母。
何か掘り返しているのかな?
一生懸命 掘る、掘る、掘る。
ふいに娘が駆けてくる。
満面の笑みで。
これママにあげる!
手のひらに小さな石。
この上ない宝ものだ。
帰省 (かなたん:5年ぶりの帰省)
車窓から眺める
景色は相変わらずだ。
最高級の青さを見せる海は
水平線の彼方まで続く。
社会人として、
女として 5つ歳を重ねた。
旅立ちの時
母に言われた言葉。
いつでも帰っておいで!
胸を張り戻れたのは
貴女のお陰。
駅が近づく。
懐かしい顔が見える。
涙が溢れた。
思春期 (ヨロコンデさん:父子の微妙な距離)
もう1週間も
口を利いていない。
中学に入り
そんなことが増えた。
難しい年頃だからな。
男親としては寂しい限りだ。
仕事も忙しい日々が続いた。
今朝も危うく遅刻だ。
駅までの道程を急ぐ。
後ろから自転車のベルが。
「忘れてるぞ」
振り向くと息子が
弁当を掲げていた。
送り盆 (せこべぇさん:お盆)
浴衣で歩くのも久しぶり。
遠くから太鼓や笛の音
音頭が聞こえてくる。
盆踊り。
もう夏も終わりか。
川沿いにいると
吹く風も心なしか冷たい。
あの人もそろそろ行くのね。
皆がそれぞれの
想いを乗せて川へ流す。
無事に辿り着いてね。
私はもう少し
こっちにいるから。
天に召す (柴にゃんさん:人類滅亡)
巨大隕石の力は
想像を絶する。
世界中のあらゆるものを
一瞬のうちに破壊した。
私もこれまでか。
薄れ行く意識の中
目の前に現れたのは猫?
犬、馬、熊、なんと象まで。
「あなたには感謝しています」
猫がそう告げると
皆で私を押し上げ
目映い光の中へ
優しく包まれた。
祖父 (ふく子さん:本)
書斎に入るのは
祖父を亡くして以来。
懐かしい匂いに
まだそこで
微笑んでくれそうだ。
壁一面に置かれた書棚には
難しそうな本が並んでいる。
その中に色褪せた何か?
懐かしい絵本だった。
眠れない夜こっそり
読み聞かせてくれた。
じいじの声が
聞こえた気がした。
悔い (まっきーさん:ミクタギの幼少期思い出)
学校から帰ると
玄関で迎えてくれた。
しっぽをピンと張り
擦り寄る。
好物の牛乳とチーズは
おやつ代わりだ。
鍵っ子だった私が
弟と可愛がっていたピコ。
猫嫌いの父がある朝
車に乗せて連れていった。
後部座席によじ登り
こちらを見て鳴いていた。
今も忘れられない。
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