ツイッター小説 140字の風景(連載)

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140字の風景(連載コーナー)⑤

「手紙」拝啓、未来の君へ

1.

「これは見たことなかった。」

『私も見るのは初めて。』

上映後、直ぐに引き込まれた

夫の横顔を見つめながら

あんなことさえなければ

隣に座っているのは

あの人だったろうか?

ふと考えてしまう。

あれから歳を重ね

何度も季節が移ろって

貴方の顔も滲んでしまった。

2.

「タイムスリップものね。」

『物凄く話題になってるよ。』

「とりあえず便乗するか!笑」

話題の映画がいよいよ上映。

” 若いカップルが

20年後にタイムスリップし

離婚危機にある未来の

自分たちを救おうとする。”

来月結婚を控えた二人に

ピッタリの内容だった。

3.

「午後6時だっけ?」

『うん!遅れないでよ。』

「…。」

今朝、そんなやり取りをした。

しかし午後6時を過ぎても

彼はやって来なかった。

そう言えば朝の様子が…。

そう思った矢先、

スマホが震えた。

” もしもし!カスミちゃん?”

『お義母さん?』

” ヨシヒコが!”

4.

何とか一命は取り留めた。

会社帰り地下鉄乗車中に

倒れたらしい。

若年性の脳梗塞だった。

更に夕方の渋滞が災いし

救急車の到着が遅れた。

昏睡状態に入り

このまま意識が戻らない

可能性が高い。

『ヨシヒコ。』

物言わぬ最愛の人を前に

立ち尽くすしかなかった。

5.

10日後、

皆の懸命な呼び掛けに

答えることなく

彼はこの世を去った。

余りに突然のことで

脱け殻のようになった私は

自宅へと引きこもった。

何日も無気力が続き

死への誘惑を感じ始めた頃

インターフォンが鳴る。

「カスミちゃん。開けて。」

ヨシヒコの母だった。

6.

映画は佳境を迎える。

彼らの離婚は

何とか回避された。

あの日見られなかった

この映画、その後の悲しみ。

そしてリバイバル。

貴方はこの未来を知ってたの?

憔悴していた私に

彼の母が手渡したもの。

もう一度生きること

これからも生きていくことを

決意させた1通の手紙。

7.

” カスミ!いよいよ結婚だな。

俺には夢のようだよ。

高校の時から10年以上。

俺はこれからも一緒にいたい。

カスミが嬉しい時、辛い時、

そして道に迷った時。

どんな時も君の側にいたい…

だがもしも。もしも万が一

それが叶わない時は

君の選ぶ誰かを応援するよ!”

回り道の恋

1.

” ああ、頭痛い。”

昨夜も呑み過ぎてしまった。

誰と一緒だったかも

定かでない。

自分で自分が分からない。

何故色んな男を

渡り歩いてしまうのか?

何故浴びるほど

お酒を呑んでしまうのか?

” 昨夜はアイツと一緒か。笑 ”

パジャマに着替えている

自分に気付いた。

2.

何故か不機嫌なあいつ。

大学、そして就職先と

長い付き合いになった。

出勤時も同じ電車に乗る。

” おはよう ” という呼び掛けに

振り向く反応すら見せない。

あれ? 昨夜なんかしたかな?

少し強めの揺れに込み上げる

酸っぱさを感じながら

あいつの横顔を見詰めた。

3.

どうしたのだろう?

あいつと連絡が取れない。

何度電話しても留守電。

ラインも既読にすらならない。

思えば最後に会った電車での

様子も普通ではなかった。

少し嫌な予感がする。

あいつのアパートへ向かった。

インターフォンを鳴らすと

暫くして扉がゆっくり開いた。

4.

「誰?」

顔を出したのは

見知らぬ女だった。

『お客さんか?』

奥からあいつの声も。

” お前こそ誰だ!”

心の中で毒づきながら

あいつが現れるのを待った。

やや暫くして、

『なんだ。どうかしたか?』

びっくりするほど

拍子抜けする声に

心配した自分を呪った。

5.

『俺の気持ちも分かったろ。』

笑ってあいつが言う。

風邪で寝込んでいたそうだ。

あの女性は上京した妹。

連絡に気付いたが私に

お灸を据えようと

放置したらしい。

「あの日も具合悪くて。ごめんな。」

ホッとした。

あれ? 私、泣いてる?

溢れる涙が全てを語った。

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