140字の風景(アラカルト)②
愛妻
夏は冷酒に真イカの刺身。
妻の気遣いが嬉しい。
冬は温めの燗と
炙ったイカかな?笑
そんな戯れ言を
呟きながら杯を進める。
私にも頂戴!
空いた盃を突き出す。
注いだ酒を
一気に呑み干しおかわり!
付き合うと
いつも俺が先に潰れる。
そんな団欒が何より嬉しい。
亡き母
良妻賢母。
絵に書いたような母だった。
頑固な父、我が儘な姉妹。
気遣いながら
平穏に家庭を守ってきた。
屋敷の清掃も自ら行う。
部屋の隅々まで
置き場の全てを把握する。
私はいつも尊敬していた。
その母も今はもういない。
父を看とり後を追った。
私も頑張るよ。
解放
海面に身体を浮かべ
一面の青い空を眺める。
夏の力強い雲の切れ端が
左から右へゆっくり移ろう。
深呼吸すると心地よさに
眠ってしまいそうになる。
都会の喧騒を忘れ
年に一度ここを訪れる。
この瞬間を味わうために。
働き詰めの日々日常から離れ
私が私に戻る時だ。
兄弟
元気でやってるか?
スマホ画面に
文字が現れた。
数年に一度
忘れた頃に送られてくる。
男の兄弟なんて
そんな物なのだろう。
一応生きてるぞ!
お前はどうだ?
兄と言えるほど
らしいことはしていない。
こっちも同じだ。
そのうち飯でも行こう!
もう十数年会っていない。
仕掛け
アポイントまであと僅か。
ショッピングモールを
抜けると早いよな。
近道を行くことにした。
老女が倒れている。
迷ったが声を掛けた。
転んだが大丈夫だと言う。
先を急ごうと走り出した時
後ろで爆発音が。
警備員が自分に向かってくる。
老女が小走りで去っていく。
恨み
うちの部署にい
る冴えない30男。
また課長に叱られている。
それでもヘラヘラ。
ある朝出社すると
課長のデスクに人だかり。
明日のコンペで使う
プレゼン資料が
データごと消えた。
今から作り直すのは
時間的に難しい。
30男の姿が見えない。
彼の私物も消えていた。
死活
南米のある都市
商社マンとして訪れた。
道を間違えた?
見慣れぬ風景に出会す。
スラム街か、危険だと聞く。
引き返そうとすると
道端に少年が倒れていた。
まだ幼い。
家に帰りたいと言う。
一緒に歩き出した時
背中に痛みが。
振り向くと少年が
血だらけの
ナイフを握っていた。
出口
峠に差し掛かり
どうするか迷った。
徒歩での旅は
兼ねてからの夢であった。
次の街まで先は長い。
覚悟を決めて
トンネルを歩き始めた。
しかし出口が
見えてから長過ぎる。
もう2時間も経つ。
最初に感じた不安が
再び胸を過る。
どうやら魔界に
迷い込んだらしい。
幽郭(かなたん:涼しい話)
山荘へ向かう林道を
1人歩いていた。
管理人として
そこで働くためだ。
猛暑日になるはずだが
木々たちのお陰で
涼しくさえ感じる。
中腹で若い女性とすれ違った。
その時、
彼女が笑った気がした。
案内状通りに辿り着いた。
そこには古びた廃墟が
嘲笑うように佇んでいた。
瞑想
回りの音、全てを遮断し
烈々と流れ続ける水流。
絶え間なく垂直に落下する。
俗世のしがらみ全てを
忘れさせてくれる。
そこから発生する
いわゆるマイナスイオンが
心持ちを穏やかにするからか。
人生に行き詰まった時
この滝を見上げにくる。
ひとしきり心を洗う。
旧友
列車の走る音で我に返った。
辺りは真っ暗だ
と思ったが目隠しされていた。
体の節々が痛む。
散々殴られた記憶が甦る。
数人の男に囲まれ
車でここまで連れて来られた。
廃工場のような所
誰かが入ってきた。
腹を蹴り上げられ
目隠しを外される。
親友の顔がそこにあった。
雪虫(せこべぇさん:秋のお話)
気温が急激に下がった。
朝晩は尚更だ。
北国の秋は駆け足で進む。
紅葉が一頻りで色づく。
その彩りを肴に
戴く酒は格別だ。
瞬く間に過ぎる夏と
やがてやって来る長い長い冬。
それらを繋ぐには
あまりにも短い秋。
あれ?雪虫か?
秋の終わりを告げ
冬の足音と共に現れた。
生き様
もう十分だよ。
今までよく頑張ってきたね。
人生を終える時
自分は己にそう
言えるだろうか?
長くそして短い人生の旅。
魂は人という器を借りて
永遠の時間旅行をしている。
そう誰かが言った。
終わるのか? 続くのか?
しかしこの肉体とは
ちゃんとお別れしておきたい。
キラク
何時間も車を走らせ
ようやく辿り着いた。
北の大地の最果て。
数10km先には
国後の島が見える。
ここからは
歩いてしか行けない。
かつて “キラク”
と呼ばれる集落があった。
船での貿易で栄え
宿や繁華街もあった。
人知れず跡形もなく消えた。
彼等の喧騒に触れた気がした。
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