ツイッター小説 140字の連載小説『女として』②

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140字の連載小説『女として』②

第4章

◆◆◆

休みは行楽地へ遊びに行った。弁当を食べ、遊具等で遊び疲れた帰りの車で娘達は眠る。私と夫はその寝息を聞きながら、今日1日の幸せを噛み締める。……また眠ってしまった。列車は相変わらず動かない。夫達は何処へ行ったのか?いや、他の乗客も見当たらない。

9.

彼と二人だけの生活が始まった。大切だった家族を捨てて掴んだ。これからは第二の人生。本当の幸せを手に入れた筈だった。最初の数年は良かった。だが次第に彼の帰りが遅くなる。なんだろう?この虚無感は。結局、何も変わらなかった。 空っぽの自分がそこにいた。

10.

娘達と連絡は取れたが会えばいつも喧嘩になった。彼女達が何故怒るのか理解出来ない。幼い時からいつも一緒に居たのに、すれ違っていたのは夫とだけではなかった。何処で間違ってしまったのだろう?妻でも母でもない私。せめて女で居たい。それで本当に幸せなのか?

11.

犬を飼う事にした。帰りが遅くなった彼を気にせず済むから。動物は子供の頃から好きだった。まだ幼い仔犬は手が掛かる。 仔犬と戯れている間は全てを忘れられた。結局何が変わったんだろう?私は、とんでもない間違いを……。それらを振り払い、夕食の準備を始めた。

12.

長女が訪ねてきた。高校生になった彼女に私はどう見えているのか?【私達、もうママとは会わないよ。】衝撃だった。この子達にはまだ私が必要な筈。【ママは何にも分かっていない。】そう言い残し長女は去って行った。彼女と引き換えに古いノートが置かれていた。

第5章

◆◆◆◆

「そうか!良かった!」最初の妊娠を伝えた時の第一声だった。満面の笑みでこれからの心配をする彼を見て幸せを感じた。この人となら明るい未来を築けると……。《お待たせしました。発車します。》 漸く列車が動き出した。しかしゆっくりと、私だけを乗せて。

13.

ノートは長女ではなく次女の物だった。B6くらいの小さな日記帳。当時小学生だった彼女が書いた物だ。離婚寸前の時期、私や周りに対する罵詈雑言が記されている。だが、その最後に書かれている文面を見て私は愕然とした。長女の言う通り、私は何も分かっていなかった。

14.

“ もう仕方ないんだよね。分かってる。でも叶うなら、パパ、ママとお姉ちゃんと。もう一度ピクニック行きたかったな。帰りの車で……お姉ちゃんと寝ちゃって。うとうとしてると、前でパパとママが話をしていて。それを聞きながら……また夢の中へ。もう一回だけ。無理かな?”

15.

私はどうすれば……。そう思うのだが後戻りは出来ない。娘達への申し訳無さより、前夫への責任転嫁が脳内を巡る。違和感に気付きながらも前へ進む事しか考えられない。彼をもう一度取り戻さないと……。人生最大の決断は何も生み出さなかった。しかし諦めたくない。

16.

人の心とはどのように出来ているのだろう?グラスに水を注ぐと徐々に満たされていく。心には何を与えれば良いのか?以前の私は満たされていた。でも心の襞に付いた小さな綻びは、いつの間にか広がり蟻地獄のように私の幸せを吸い込んでいった。もう取り戻せないのか?

最終章

◆◆◆◆◆

窓外の景色は変わらない。延々と原野が続いている。この列車は何処へ行くのか?夫や娘達との幸せな生活。それは確かに存在した。 しかし遥か遠い昔のようにも思う。夕暮れが近づいてきた。西日が照らす景色が滲んで見える。もう誰も列車には乗っていない。

17.

娘達に謝罪したい。一緒に暮らす彼を大切にしなきゃ。私は結局自分の事しか考えていなかった。前夫にさえ、もっと何か出来たのでは?そんな風に考えられる様になって、彼の帰りも早くなった。“そろそろ籍入れようか?” 過去は過去で向き合い、前に進まなくては……。

18.

少し遅くなった。パート帰りの買い物に手間取った。今日は彼が休みだから一緒にお酒でも飲もう。……部屋のドアノブを回すと鍵が掛かっていない。開けると女が立っていた。知らない女だ。その向こう側で彼が俯せで横たわっている。腹部の痛みで、私は理由を知った。

19.

“ママ!リンゴ食べる?” ここは……。病室の様だ。どうして……そうか、そうだった。長女が不思議そうに見詰めている。“どうしたの?ぼんやりして?パパ達もそろそろ来るよ。” あの人も来るの?何がどうなっているのか?意識を失っている間に何かあったのだろうか?

20.

「良かった。心配したぞ。」“ママ。大丈夫?” 前夫と次女もやってきた。まるで何もなかったようだ。『あの人は?』「ん?あの人?誰だ?」“ママ夢でも見たの?” やはり眠っている間に何か起こったらしい。「あと数日で退院出来るらしい。そしたらお家に帰ろう。」

21.

“ママ!おかわり!” 「今日の煮付け美味しいな!」家族4人で食卓を囲む。

みんな素晴らしい笑顔。ああ、私はこんなにも幸せだ。

……窓外に見える原野。そこに3人の人影が手を振る。

待って!私も降りる!もう一度!もう一度だけ……。

胸の鼓動が途絶えた。 完

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