ツイッター小説 140字の連載小説『観音様のヒモ』⑦

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140字の連載小説『観音様のヒモ』⑦(完結)

7.

「早川って名字を利用したのよ。」

沙織は申し訳なさそうに語り始めた。

「一連のやり取りは全てお芝居。皆、エキストラ。」

『え?』

夏樹は身を乗り出した。

「私は堅気の娘だし、桑嶋君も私の幼なじみで一般人。」

沙織は姿勢を正し、

「壮大なフェイクだったの。」

夏樹は黙っていた。 何から語れば?聞きたい事も山程あったが肩の力が抜けた。

「貴方が悪い人でない事は、あの夜で分かったわ。」

沙織は優しい眼で夏樹を見詰めた。

『沙織さん。辛かったですね。』

そう言った夏樹の表情が智と重なる。 沙織の頬を雫が降りていく。

結局、沙織の執念が智を殺害した犯人検挙に繋がった。

『沙織さん。あの夜の事もやはりフェイク……ですよね?』

夏樹はずっと疑問だった事を沙織に問い掛けた。 いくらお芝居とはいえ、あり得ないと思ってしまう。

「……どうなんだろう?」

沙織は悪戯っぽく微笑んだ。

都内の、とある住宅街。 夏樹は早川邸にいた。いや正確に言うと本物の早川沙織宅。 二人で訪れた時、出迎えてくれたのは早川総裁……ではなく早川隆三だった。

《色々済まなかったね。》

苦笑いでの挨拶となった。 沙織がどうしてもお詫びを、と言う事で今日は招かれた。

早川家で沢山のもてなしを受け、夏樹も少しほろ酔いになった。 沙織の壮大な計画に協力した面々も集まってくれた。 沙織と、そして智の人望が成せた事かもしれない。 宴も終盤に入り一人二人と席を立つ者も現れた。 いつの間にか沙織と夏樹は別室で二人きりになっていた。

「夏樹!もっと呑みなさいよ!」

沙織も気が抜けたのか、すっかり酔ってしまったようだ。

『呑んでますよ。』

夏樹もその様子を嬉しく思った。 二人で既にワインを4本空けている。

「夏樹で……良かったな。」

沙織が突然、しんみり呟いた。 夏樹は瞳で続きを促した。

「本当は貴方を知っていたの。猪俣君と一緒の所を何度か見掛けた。」

沙織は驚きの言葉を口にした。

「ヒモとか女性の噂があったけど、私にはそんな風に見えなかった。」

夏樹は何も答えず続きを待った。

「何処となく智に重ねていたのかな?」

沙織の視線を感じた。

『猪俣から合コンに誘われた時、正直何かあると思いました。』

夏樹も沙織を見詰めて言った。

『でも……目の前に沙織さんが座って……冷静ではいられなくなって……。』

立ち上がり、向かいに座る沙織へ歩を進める。 そして隣に腰を下ろし、そっと沙織の左手を取った。

夏樹を見上げる沙織の表情は儚げだった。 伏し目がちの瞳。ポニーテールから零れた後れ毛。 襟足からはもう観音様は見えない。

「あれは偽物だから。」

そう言って笑う。 ほとんど条件反射。 唇を重ね、そして緊く緊く抱き締めた。 もう何処へも行って仕舞わぬ様に……。

都心から電車で2時間。全く風景が変わる。 駅から真っ直ぐ墓地へ向かった。 立ち並ぶ墓石の一つに買ってきた花と缶ビールを備える。

『智さん。終わりました。沙織さんは任せて下さいね。』

夏樹は尊敬する先輩に報告した。

『ヒモとしては、まだまだですけど。』

(ツイッター 91~100)

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