早見和真 イノセントデイズ
ミクタギです。
本日も少し前の作品です。
今の時代、世間一般の意見
更にはマスコミに扇動された物語は
1人の人間のすべてを
作り上げてしまう。
しかしそれが全くの虚構だとしても
その人間に為すすべはない。
それがどれほど愚かで
やり切れない物語だとしても。
作者紹介
早見和真
神奈川県出身
2008年「ひゃくはち」で作家デビュー
「イノセント デイズ」で
日本推理作家協会賞受賞。
フジテレビ系ドラマ「連続ドラマW」にて
今は亡き竹内結子主演で放送されました。
代表作
「東京ドーン」「ぼくたちの家族」
本編相関図
※
田中幸乃・・・・何と言っても、この小説のキーを握る人物。彼女の反省を知らずしてこの話は語れない。
佐々木慎一・・・・幸乃の幼馴染。まだ幸せだった頃の幸乃。そこから転落していく幸乃を傍観してしまった事に罪悪感を抱える。
野田ヒカル・・・・幸乃の母。不幸の連鎖を何とか食い止めようと懸命に生きてきた。だが…。
田中美智子・・・・全ての元凶となった人物。しかし彼女もまた悲しみを抱える。
代表作
「東京ドーン」「ぼくたちの家族」
「6 シックス」
本編あらすじ
田中幸乃は、
元恋人とその妻と子供を
放火殺害した容疑で逮捕され
裁判で全てを認め、
死刑が確定してしまう。
24歳で収監され6年が過ぎる。
いつ刑が執行されてもおかしくない。
裁判の傍聴が趣味である
女性司法修習生の視点で物語は進む。
世間の目は、”凶悪殺人鬼を死刑にしろ”
である。
『覚悟のない17歳の母に育てられ』
『養父からの激しいDVを受け』
『中学時代には強盗致傷事件を起こし』
元から殺人鬼の素養があったかのよう。
しかし、傍聴を続けるうちに
事件に対する違和感を持つ。
死刑判決にすら、ほとんど動揺せず
一切の釈明をしない。
本当に彼女の犯行か?
しかし、そこには
全てが誤解である
彼女の壮絶な人生があった。
本編見どころ
『覚悟のない17歳の母に育てられ』
『養父からの激しいDVを受け』
『中学時代には強盗致傷事件を起こし』
本編はこれらの生い立ちを遡っていく。
それらを一つずつ追っていくと
彼女の不運と切なくなるほどの
純粋さに起因している。
司法修習生と共に
かつての幼馴染も彼女の事件を追う。
当時救ってあげられなかった
後悔を背負って。
そして物語の焦点は、
世間の作り上げた虚構と
実際の彼女の半生が
どのようにして乖離していったかです。
そこに絞って読んでいくと
この物語の本質に
辿り着けると思います。
読後感
真実とは何なのか?
この1点でした。
この世で起きていることは
もしかしたら誤解なのではないか?
根拠などない。
何故なら、ほとんどの人間が
真実の追及など行わないからだ。
だとしたら、
私たちは何を信じ、何を頼りに
生きていけば良いのか?
もし、あなたの肉親が
ある日突然逮捕され、
実は無実なのに
その全ての罪を受け入れる。
そんな事が現実に起きたら…。
本人がそこまで
受け入れてしまうまでに
いったい何があったのか?
そして虚構の淵に
追いやられた人間は
為すすべなく
堕ちていくしかないのか?
切なさとやり切れなさと疑問
だけが深く残ります。
この作品を読んだ方が
彼女の本当の姿を知った時
胸を去来する想いは、
おそらく私と同じだと思います。
私も幼少期に幸せと絶望の
両方を味わいました。
その時に強くおもった事は
誰も自分を助けてはくれない。
自分はたった一人だという孤独感。
この負の連鎖に陥った時
人は全てを諦めるのです。
主人公も田中幸乃も
きっとそうだったのでは?
そう思わずにはいられません。
その他、読者の感想
幸乃がその名前とは正反対に残酷な人生を歩んできたこと、また、色々な罪を小さな頃から一人で背負ってきたことが痛いほど伝わり胸がつまる思いでした。自分が幸乃だったらこのように強く生きれないと、感情移入するところが多々ありました。また、慎一が接触する人物が皆それぞれ闇を抱えているようで、そして幸乃に対して懺悔の気持ちで溢れていることも伝わってきました。そして慎一自身も、丹下に嫉妬している様子を見ていると、自分の人生と幸乃の人生を重ねて見ているのではないか?と感じました。正義感と思いやりに溢れている部分はとても素晴らしいですが、もう少し慎一が堂々としていてほしかったなと感じます。幸乃の過去を知る人物達の話から、みんなが幸乃のことを心から憎んでいるわけでなく、また、極悪非道な人物だとも思ってないことがよく伝わってきました。なのに、どうして悲劇が起こってしまったのか?真犯人はやはり幸乃なのか?謎が解けそうでラストまで読めない展開にハマってしまって、毎回誰が真犯人なのかと推理するのがとても楽しかったです。最終話で真犯人がわかり、驚愕の事実に驚きとショックを隠せませんでした。幸乃がこの後どういう人生を辿るのか、最後までハラハラドキドキが味わえる作品です。
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