桜木紫乃 無垢の領域 ネタバレなし!類稀なる才能。無垢ゆえにそれは不幸に繋がってしまうのか…?

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桜木紫乃 無垢の領域

ミクタギです。

年を取ると若き日の純粋さに

思いを馳せる。

しかし、純粋さは人を傷つけ

己をも追い込むときがある。

”無垢” とはそれほど尊く

残酷なものである。

本日の作品です。

作者紹介

桜木紫乃

北海道釧路市 出身

2002年 「雪虫」

で第82回オール読物新人賞 受賞

2013年 「ホテル ローヤル」

で第149回直木賞 受賞

代表作

「ラブレス」

「起終点駅 ターミナル」

「霧 ウラル」

本編あらすじ

秋津龍生あきつりゅうせいは書道家である。

かつて期待の新人と言われ

将来を期待された逸材も

鳴かず飛ばずで40を越えた。

自宅で書道教室を営む傍ら

不定期で市立図書館に

個展を発表している。

ある日そこで、

一人の若い女性と遭遇する。

そしてその女性は、

今までの自分のわだかまりを

彼の作品を見ることによって

見事に言い当ててしまう。

女性は図書館長・林原信輝はやしばらのぶき

妹・純香すみかだった。

彼女の純粋さは、25歳でありながら

幼児並みの知能しか持ち合わせて

いないことに起因する。

秋津はその純粋さに

心奪われる事となる。

2歳年下の妻・伶子、館長・林原

彼の幼馴染・里奈を含め

それぞれの葛藤が交差し

純香の無垢さに翻弄される。

しかし無垢は、

悲しい結末と虚しさを残していった。

本編見どころ

この作品の見どころは

秋津夫妻、林原兄妹に

林原の幼馴染・里奈を加えた人間模様が

純香を中心にどう変化していくか?

そこが焦点です。

純香に関心を示す夫、

その一方、純香の兄・信輝に

心揺れる伶子。

幼馴染・里奈の気持ちに

答えられない信輝。

そして伶子に心惹かれる信輝。

ただ変わらない純香。

変化する心と変わらない無垢。

この狭間で揺れる彼らの心情を

存分に味わってください。

もどかしくもあり

切なくもあり

桜木さんの筆技に感服です。

読後感

無垢であることは罪なのか?

こんな疑問が湧いてきました。

無垢事態に罪はない。

無垢である人にも罪はない。

なのにどうして、

これほどまでに

人に影響を与えてしまうのか?

悲しみや葛藤を生んでしまうのか?

考えても考えても

分からないのです。

そして言いようのない虚しさ

切なさ、悲しさ。

それだけが強烈に心に残りました。

タイトル「無垢の領域」は、

どこまでか?

どこまで許され、許されないのか?

いや、止め、止められるべきなのか?

いずれにせよ無垢自体には、

全く意思を持たないことは

言うまでもないことなのだが、、、、。

読者の感想

高度自閉症と思われる挙動を示しながら、特別な才能をもつ純香。

口数少ない彼女の鋭い一言に周囲は振り回される。

主人公の秋津龍生でさえ、彼女の周辺人物にしか見えない。

登場人物全てにフォーカスされた桜木作品。

波紋の中心が林原純香と秋津令子だとすると、コアは純香の兄である。

だけど桜木作品で「コア」なんていうのは野暮。

偏在する点の一つ一つが中心であり、

たまたま作者が照らした人だけが読者に見えただけなのだから。

以前に数回お会いしただけの二十歳前の高度自閉症の女性を思い出しました。

澄みきってて、魚も棲めない水を思わせる瞳ってすごい表現。

純香のような人には脅威を感じる。

自由さが羨ましく、妬ましく、悪意がないゆえに傷つけられ、

自分の薄暗い感情があぶり出されていく。

書道教室の男の子の気持ちが解る気がして、とても可哀想で辛かった。

登場人物たちが罪悪感まみれで息が詰まる。

皆、はみ出せなくて、自分を守りながら生きている。

★気持ちの襞に入って行き過ぎる★書家の夫、教師の妻、図書館長、

立場を替えて語る思いがそれぞれに痛切すぎてつらいほど。

特に夫の母親を巡るくだりはきつい。

初めて読んだ著者の小説だが、

実際に目にした北海道の景色とあいまって素晴らしい。

北海道の特徴は寒さだが、それよりも実は湿度だと思っていて、

札幌の乾燥と釧路の湿気はその最たるものだろう。それが伝わってくる。

さらに沁みたのは、本物を判断する力はあってもそれを表現できない書家のジレンマ。

それも他人に無意識に本物を生み出されてはたまらない。

何が本物か、という疑問は常にあるが、

本物の評価基準が分からない自分にとってみても、これは生きづらい。

絶対音感があっても譜面どおりに歌えない人もそうなのだろうか。

《 参考文献 》

※ サヴァン症候群

サヴァン症候群の原因は諸説あり、特定には至っていない。脳の器質因にその原因を求める論が有力だが、自閉症のある者が持つ特異な認知をその原因に求める説もある。中枢神経疾患によって、後天的に能力を発現する場合もあり、これは獲得性サヴァン症候群と呼ばれる。なお、自閉症や発達障害、コミュニケーション障害のある者の全てが能力を持っているわけではない。

信州大学特別支援学校での調査によれば、ほとんどのサヴァン症候群児童は男性であり、これは自閉症児が男性に多いことに関係していると推察される。

実際には症例により各々メカニズムが異なり、同じ症例は二つとないという考えもある。

広義には、障害にもかかわらずある分野で他の分野より優れた(健常者と比較して並外れているわけではない)能力を持つ人も含めることもある。

また、いわゆる天才や偉人の多くは円満な人格者ではなく、中には日常生活に支障が出る症状の人、時に自閉症やコミュニケーション障害に近い症状の人もおり、それがさらに極端になって「紙一重」を超えたのがサヴァン症候群だという見方もある。

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『無垢の領域』|感想・レビュー - 読書メーター
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