柚月裕子 蟻の菜園
本編あらすじ
登場人物
今林由美・・・週刊詩「ポインター」フリー記者
長谷川康子・・・週刊誌「ポインター」編集長
片芝敬・・・千葉新報 報道記者
円藤冬香・・・結婚詐欺容疑で逮捕
与野井啓介・・・命のボランティア活動
沢越剛・・・建設現場作業員
沢越早紀・・・剛の長女
今林由美は週刊誌
「ポインター」のフリー記者。
編集長の
長谷川康子は親友でもある。
記事ネタを探す由美は
ある結婚詐欺と
車中練炭死亡事件に注目する。
逮捕されたのは、円藤冬香。
43歳だがその美貌は健在で
由美はそこに違和感を覚えた。
何故、結婚詐欺など行ったのか?
その美貌なら
他にいくらでも稼げたろう。
この事件には、何かある。
由美は編集長の康子に
取材を進言した。
早速、
円藤冬香周辺の取材を始めたが
個人情報保護法
の壁にぶつかり難航する。
困り果てた由美は
先輩記者に相談する。
そして千葉新報の
片芝を紹介された。
情報提供を求める。
最初は拒絶した片芝だが
由美の熱意に押され
徐々に情報を
くれるようになった。
その中に冬香の中学生時代の
同級生に関する情報があった。
さっそく尋ねる。
そこで由美は冬香のルーツが
北陸にヒントがあることを掴む。
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与野井啓介は役場での
その日の仕事を終えると
自宅に到着した。
ところが妻の様子がおかしい。
命の電話に少女から連絡があった。
かなり弱っているようだという。
啓介は命の
ボランティアをしている。
東尋坊という自殺の名所の
電話ボックスに
10円玉を置いてある。
死に急ぐ人達が
一人でも救われるように。
少女はそこから掛けて来たらしい。
外は闇夜に激しい風雨。
啓介はすぐに向かった。
そこには冬の寒空に
薄着で少女がうずくまっていた。
最初は拒絶した少女を
何とか説得して
啓介の家に連れて行った。
妻は暖かい食事と
風呂を用意して待っていた。
風呂に案内した妻が少女の体に
無数の痣とタバコの跡を発見する。
虐待を感じ取った夫妻は
少女に家族構成を尋ねる。
名前は沢越早紀。
父親と妹が一人
母はいないらしい。
食事を促すと
貪るように食べ始めた。
只ならぬ状況を感じ
泊まって行くように言ったが
妹が待っているといって
頑なに拒否する。
何とか説得した矢先
早紀は姿を消してしまった。
本編見どころ
早紀はどこへ行ってしまったのか?
途方に暮れる
啓介の元に一報が入る。
少女が人を刺して逃げている。
刺した相手は父親らしい。
父親は沢越剛。
建設現場の作業員。
住所不定で車上生活を続けている。
車の場所を聞き出し警察が向かう。
古びた車にまだ5、6歳の
女の子が乗っていた。
名前を聞くと 冬香 と答えた。
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壮絶な暴力と劣悪な生活環境。
身を寄せ合って生きた二人の姉妹。
その妹の名が冬香。
結婚詐欺事件の円藤冬香なのか?
由美が調べを続け
片芝も別方面から援護する。
徐々に明らかになる
彼女たちの過去は更なる謎を残す。
二人の姉妹のその後と
事件との繋がり。
ここが最大の焦点になる。
読後感
人を騙したり嘘をついたり
ましてや殺したり。
いけないことは百も承知である。
しかし年端もいかない少女達が
壮絶な暴力と放置の中で
どのように生きれば良かったのか?
どんなに助けを求めたくても
怖くて何も出来ない。
一時的に救われても
直ぐに親の所に戻され虐待は続く。
終には実の父親に操まで奪われる。
そんな絶望の中で
寄り添ってきた二人は
お互いが全てだった。
離ればなれになっても
いつか会えることを夢見た。
そして生きるために罪を重ねた。
罪は償わねばならない。
しかし我々は彼女たちを
責めることが出来るのか?
世界中の至る所に
沢越姉妹がいる。
それを救えないのは我々にも
責任があると言わざるを得ない。
作者紹介
柚月裕子
1968年岩手県生まれ
2008年「臨床真理」で
第7回
「このミステリーがすごい」
大賞受賞でデビュー
2016年「孤狼の血」で
第69回 日本推理作家
協会賞受賞
代表作
「最後の証人」「検事の死命」
「あしたの君へ」
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