唯川恵 逢魔 ネタバレなし!怪談話の時代物。いつの時代も女の情念は…。

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唯川恵 逢魔

本編あらすじ

全8話

夢魔の甘き唇・・・ろくろ首

朱夏は濡れゆく・・・牡丹灯籠

蠱惑こわくする指・・・番町皿屋敷

陶酔の舌・・・蛇性の婬

漆黒の闇は報いる・・・怪猫伝

無垢なる陰獣・・・四谷怪談

真白き乳房・・・山姥

白鷺は夜に狂う・・・六条御息所

日本の怪談になぞられた全8話。

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街道沿いの安宿。

女主人は三十路半ば。

かつては女郎を生業にしたが

年齢もあり安宿の

女主人に落ち着いた。

宿代だけでは中々厳しく

時折訪れる男一人客を

誘惑しては小銭を稼いでいた。

今宵も訪れた若い男客に

懐も体も温めて貰うつもりでいた。

夜も更け男の部屋へ向かう。

男は起きていた。

一人で寂しいからと酒に誘う。

酔いに任せてそれと無く誘惑するも

全く乗ってこない。

痺れを切らして問い詰めると

誘いに乗れない訳があると言う。

「ろくろ首」

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新三郎はちょっとした財を

親から引き継ぎ

悠々自適に暮らしていた。

身の回りの世話は三十路半ばの

夫婦が給金を貰ってやっている。

ある日いつものように

悪友・山本志丈がやってきた。

そして紹介したい女がいるという。

藪医者の志丈が出入りしている

有力旗本の屋敷に住む娘

その名をつゆといった。

初対面で新三郎は心を奪われた。

それほど美しかった。

しかし露の反応は今一つ。

その場限りの事と思っていた。

数日後、

ある中年女性が訪ねてきた。

あの屋敷で露に

仕えていた女性だった。

女性は頼みがあるという。

お嬢様にもう一度会って欲しい。

露は新三郎に恋煩いを

しているという。

「牡丹灯籠」

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加代が青山主善の屋敷に

上がったのは半年前の十七だった。

好色な主の側室として

下級武士の娘には

逆らうすべもなかった。

時折床入りに現れては

身勝手を尽くして去っていく。

辟易とした日々を過ごしていた。

そんな加代を癒してくれたのは

お付きの菊だった。

菊はまだ十四歳。

自分と同じように

貧しい生い立ちだった。

二人はいつしか心を通わせ

床を共にするようになる。

毎夜肌を合わせる二人。

やがて屋敷内で二人の

噂が立つようになる。

「番町皿屋敷」

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界隈で名の知れた網元の息子・豊雄

兄と姉を持ち学問に勤しむ

貧弱な男だった。

父と母も心配をしていた。

ある雨の日、家にいた豊雄は

軒先で雨宿りをしたいという

女に出会った。

女は豊雄より2,3年上に見えた。

女はあがた真女子まなこと名乗った。

この近くに住み

日が良いということで出掛けたが

急な雨に降られてしまったという。

やがて雨は止み

帰りがけ傘を貸した。

申し訳ないという真女子に

近くならばそのうち

取りに伺うと答えた。

初めての女性にときめいた。

豊雄は数日後

真女子を探して近くの土地を

歩きまわった。

しかしいくら探しても見つからない

途方にくれた頃

海沿いに立派な屋敷を見つけた。

中から現れたのは

恋焦がれた真女子だった。

「蛇性の婬」

本編見どころ

その他、

自分の立場を守るため

邪魔となった女を亡き者にした

貪欲な女が原因不明の

不幸に見舞われる話。

「怪猫伝」

自分が恋した男が

姉のように慕う女性の

いい名付けと知り

沸き立つ嫉妬をあらぬ手段で

鎮めようとする話。

「四谷怪談」

山奥で道に迷った父子。

野宿を決心したが

明かりの灯る家を見つける。

中から現れた女は

何とも言えない色香を放っていた。

「山姥」

ある夜庭先に現れた男。

それ以来夜ごと愛を囁きにやって来る

夫を亡くし女を忘れていた女は

男の囁きに徐々に心を溶かしていく。

「六条御息所」

読後感

女の情念を怖く、

切なく描いている。

きっかけはいつも男が作る。

しかしいつしか

女の中に燃え上がる炎が

男の気持ちを尻込みさせる。

その時にはもう遅い。

女の炎に焼かれ男は為すすべなく

奈落の底に落ちていく。

後に残るのは女が残した

至福の情念だけである。

作者紹介

唯川恵

1955年 金沢生まれ

1984年 「海色の午後」で

コバルト・ノベル大賞 受賞

2002年 「肩ごしの恋人」で

直木賞 受賞

2008年 「愛に似たもの」で

柴田錬三郎賞 受賞

代表作

「ベター・ハーフ」

「燃えつきるまで」

「100万回の言い訳」

「セシルのもくろみ」

読者の感想

唯川さん、立て続けにに読了しました。昨年、知った花房観音さんの時と同じですね。そして、この本の解説が、花房さんで、読み応えありました。  8つの古典の名作を題材に、唯川さんが素敵なアレンジをしています。特に、怖い山姥が、登場する「真白き乳房」が、心に残りました。人間の性に潜む怖いお話が良かったです。他の作品も読んでみようと思います。

『美しく、艶めしく、そしてとてつもなく怖ろしい奇譚集』八つの古典怪談を元にした奇譚集。純粋なホラー的な怖さはありませんが、人間的なジワジワとした怖さがあります。人が情に溺れ狂うと、こんなにも哀しくて怖いものかと感じます。ここまで狂うことはない、とは思うけど、人は皆、多かれ少かれ狂う可能性がある、そんな怖さを感じる作品でした。こんな姿になってもなお、求めるのか。『愛』って、凄く怖くて哀しいな。

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『逢魔』|感想・レビュー - 読書メーター
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