凶犬の眼 ネタバレなし(柚月裕子)
序盤 抑えるべきポイント
警察と闇社会との繋がり。持ちつ持たれつの悪しき慣習と言われる。
新人刑事だった日岡秀一は、上司・大上のまさに悪しき慣習に染まったやり方に不満を隠せなかった。しかし彼を知るうちに極道にも色がある事を知る。
極道の世界を静観しその中が黒に染まらぬ様、時には働き掛けバランスを取る。
そんな大上を日岡は少しずつ信頼し始める。
すっかり彼のやり方が身に付いた頃、突然の大上の死。県警の闇と汚名を抱いたままこの世を去ってしまった。
その責任を相棒であった日岡も取らされ、僻地への転勤を余儀なくされる。
閉鎖的な田舎町で静かに交番勤務を行う日岡が、親類の葬儀で2年振りに広島の “小料理屋 志乃” の女将・晶子を訪れる所からこの物語は始まる。
久々の晶子の手料理は、かつて大上と何度も通った日々を思い起こさせる。
昔話に花を咲かせていると二階の小上がりから話し声が聞こえる。晶子に誰か来ているのかと尋ねると一之瀬達と建設会社の社長だと言うが何故か歯切れが悪い。
すると二階から人が降りてくる。ゴルフ帰りのような派手な服装。護衛を付けて独特の雰囲気を醸し出す。ヤクザだ。トイレに行き、そして戻っていく。
違和感を感じた日岡は二階へと向かう。
そこには大上が懇意にしていて日岡とも親交がある、尾谷組・一之瀬組長と瀧井組・瀧井組長、そして見知らぬ男がいた。
挨拶と称して部屋に来た日岡に対して、二人の対応は微妙だった。深入りするな、席を外せという空気が部屋中に漂う。
そうしているうちに、見知らぬ男が誰かを思い出した。
明石組組長・武田を殺害した心和会所属、義誠連合会会長・国光であった。現在指名手配中だ。
関西の暴力団抗争、明石組と心和会のいわゆる明心戦争。その心和会側の国光と、抗争に関係ない尾谷組、瀧井組の所属する仁正会の接触。
見知らぬ男を建設会社の社長という一之瀬らの真意に気付いた日岡は、気取られぬ様にその場を立ち去る。この事を報告すれば広島に戻れる。
店を出ると晶子が飛んでくる。日岡の考えに気付きそれを止める。大上の意志を引き継いだのなら彼らの真意を汲み取りなさいと。
しかし日岡はそれを振り切って帰ろうとする。そこへ……国光が現れた。
そして自ら自分を国光だと名乗る。その上で、時間が欲しい。自分にはまだやらなければいけない事がある。
それが終わったら、間違いなくあんたに手錠を嵌めて貰う。必ず約束すると……。
相関図
本編あらすじ
広島での国光との出会いから勤務地の中津郷派出所に戻った日岡は、まったりと流れる空気の中で毎日を送る。
二年の日々は、閉鎖的な村人達との距離を縮め、“交番のおまわりさん”としての立ち位置を確保するに至った。
巡回中に各家庭を回り、時には夫婦喧嘩の仲裁まで行う。気取らず偉ぶらず地域社会に溶け込んで行ったのは、いずれ広島に戻って刑事として活躍する日々を思い描いていたからかもしれない。
村の有力者にも気に入られ高校生の娘の家庭教師を頼まれた時も、関係を円滑にして事を荒立てない為、渋々引き受けた。
しかしそれは日岡と娘を近づけ、何れ娘の婿としてこの村に引き留める魂胆があった事も忘れてはいけない。
それを知ってか知らずか娘の方も、日岡に心を寄せているのが垣間見えた。
そんな中、長期にわたり頓挫していたゴルフ場の建設工事が再開されるという。
受注したのは九州の建設会社で依頼を受けた業者が村の現場作業所に常駐するという。
様子を見に行った日岡はそこで見覚えのあるランドクルーザーを見かける。それから暫くして日岡は現場責任者から呼び出しを受ける事になる。
ネタバレなしで本編を楽しむ
映画化もされ一世を風靡した「孤狼の血」の続編である。
大上の死から彼の意志を受け継ぐため、左遷された田舎の派出所から広島へ戻る日を夢見て勤務に当たる。
そんな日岡が久々に現れた広島で遭遇した国光との出会い。
この物語は、対立する明石組組長の殺害後、逃走する国光とそれに気付いた日岡が、その後どのように相対するのか?
二人の関係を中心に、ゆっくりと、そしてしなやかに展開される。
緩急をつけて心を揺さぶられながら、気付くとページを捲っている。止められなかった。
流石の柚月裕子さん。今回も見事にやられてしまいました。
読者の感想
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