桜木紫乃 起終点駅
作者紹介
桜木紫乃
北海道釧路市出身
2002年「雪虫」で
第82回オール読物新人賞受賞
2013年「ラブレス」で
第19回島清恋愛文学賞受賞
同年、「ホテルローヤル」で
第149回直木賞受賞
代表作
「起終点駅(ターミナル)」
「星々たち」「ブルース」
本編あらすじ
鷲田完治・・・国選弁護士
椎名敦子・・・完治の依頼人
大下一龍・・・地元ヤクザの組長
篠田冴子・・・完治の元恋人
鷲田完治は北海道・釧路で
国選だけしか受けない
国選弁護士をしている。
彼の今回の依頼人は
覚せい剤使用の罪で起訴された
椎名敦子の弁護である。
彼女は一切の罪を認め
争うことなく捨て鉢な態度で
裁判に臨む態度だ。
初犯ということもあり
予想通り
執行猶予付きの判決を得た。
裁判が終わり
事務所兼自宅で寛いでいると
訪問者が。
椎名敦子であった。
彼女は完治に彼を
探して欲しいと依頼する。
彼とは彼女が罪を被った
男のことであった。
国選しか受けない旨を
伝え帰そうとするが
何故か昼食を
一緒にと誘ってしまう。
彼女にかつて愛した女性を
重ねてしまったからである。
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完治は学生時代いわゆる
学生運動の真っ只中であった。
日々仲間たちと
革命について語り合う日々
そんな彼の日常を変えたのが
二つ下の後輩・篠田冴子だった。
彼女との生活を始めると
完治は学生運動を止め、
法律かの道を歩き始める。
冴子はそれを支えるため
水商売すら行い彼を支えた。
やがて彼は司法試験に合格し
一つの区切りを迎える。
その直後、冴子が完治の前から
いなくなってしまう。
その後、10年の時を経て
彼女と再会を果たす。
彼が裁判官として出廷した裁判の
被告としてである。
覚せい剤取締法違反であった。
本編見どころ
そんな彼女と敦子を重ねたのは
敦子が醸し出す雰囲気からなのか?
何故か彼女を
突き放せない自分がいた。
そして敦子は完治に
実家に連れて行って欲しいと頼む。
釧路の隣町・厚岸町である。
国道から内側に入り
舗装も儘ならない
荒れた道路を進む。
やがて辿り着いたのは
廃墟となったかつての実家であった。
彼女は何故、
完治を連れて行ったのか?
ここが焦点である。
この物語の他、
5作品からなる男と女のストーリー。
読後感
かつての恋人に
思いを馳せることは
誰にも起こりうることである。
それが忘れることが
出来ない事であれば尚更である。
ましてよく似た
相手が現れてしまったら
その思いを止めるのは
難しいかもしれない。
例え人生の
終盤を迎えた男であっても。
それは何故か?
人はどうしても
取り戻そうとしてしまう。
もうそこにはない
二度と帰らないものを。
分かっていても
もしかしたら取り戻せるのでは?
淡い期待を抱いてしまう。
ましてそこに当時を
彷彿とさせるものが現れたら。
彼は多くのものを失ってきた。
人生の終盤に来て
今までの人生を
塗替えられるとしたら
そうしたいと思うのはよく分かる。
実際に出来る出来ないに
関わらずそうするだろう。
元裁判官である彼が
何故弁護士を
しかも国選弁護士をしているのか?
ここも物語に絡んでくる。
自分に
置き換えたらどうするだろう?
懐かしのあまり
やはり追い求めてしまうだろう。
かつてすれ違ってしまった、
掴めなかった思いを
もう一度手に入れたい。
そう思うであろう。
しかし本当は
分かっているのかもしれない。
当時を追い求め
辿り着いたその先にあるものは
虚しい風が
吹いているだけなのだと。
そんなことを思いながら
自分もこれまでの来し方を
ゆっくり振り返ってみよう。
ただ決して戻ることは
出来ないのだけれど。
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