角田光代 八日目の蝉
作者紹介
角田光代
1967年神奈川県生まれ
1990年 「幸福な遊戯」で
第9回海燕新人文学賞を受賞
デビューする。
2005年「対岸の彼女」で
第132回直木賞を受賞
代表作
「森の眠る魚」「くまちゃん」
「ひそやかな花園」
本編あらすじ
野々宮希和子は、
4歳上の秋山丈博と社内での
あるトラブルがきっかけで
不倫関係に堕ちてしまう。
希和子は妻帯者お決まりの
妻とは別れようと思っている
という言葉を信じ
彼の子を身籠ってしまう。
しかし彼の妻は妊娠しており
希和子との関係に気付かれると
丈博は希和子に堕胎を要求する。
やがて妻が出産したことを知り
自暴自棄で、ふらふらと
秋山家を訪ねた希和子は
夫妻が目を離した僅かな時間で
赤ん坊を連れ出してしまう。
その後、
逃亡生活を送ることになる
彼女は赤ん坊に薫と名付ける。
東京で元・同級生だった康枝。
名古屋で立ち退きを待つ
家に住む老女・とみ子。
宗教施設・エンジェルホーム。
そこで知り合った
沢田久美の故郷・小豆島。
様々な人々を通り抜け
育て続けた薫は
4歳になっていた。
本編見どころ
その年の秋祭り。
小豆島に来て初めて
祭りを訪れた。
その際に薫と幸せ一杯に写る
希和子の写真が
全国紙に掲載されてしまう。
この事がきっかけで
希和子の逃亡生活は幕を閉じる。
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時は移り、
親元に戻された薫は、
本名・秋山恵理菜に戻り
二十歳を過ぎていた。
既に実家を出て
アルバイトをしながら
1人暮らしをしている。
もうしばらく
妻帯者の男と関係を続けている。
恵理菜の戻った秋山家は
その後生まれた妹と共に
新しい生活が始まった。
しかし何をするにも
事件の影が付きまとい
ギクシャクした関係は続く。
苦しむ家族たちを
どこか人ごとのように
感じる自分に
絶望を感じる恵理菜は、
やはり自分を連れ去った女性
希和子の影に苦しむ。
そんな中、妻帯者との子を
身籠ってしまう彼女は、
エンジェルホーム時代の
幼馴染・千草と共に
自分のルーツである
小豆島を目指す旅に出る。
この小豆島こそ
この物語の焦点である。
宿命としか言えない出会い。
長い時を経て苦しんできた
恵理菜と希和子。
この二人の想いが
最終的にどこへ向かうのか?
読後感
「八日目の蝉」
蝉は何年も
土の中で過ごし地上に出て
僅か7日間で生涯を閉じる。
その儚くも尊い一生を
この物語に
見事に置き換えている。
彼女たちは
ほんの短い間だったが
輝き幸せだったのではないか?
それが皮肉にもふたりを引き離す
あの写真に映し出されてしまう。
幸せ一杯の誰もが目を奪われる、
そんな一コマ。
それだけは紛れもない真実だ。
長年苦悩してきた恵理奈が、
身籠ることによって
ずっと封印してきた
希和子への想いに気付く。
その想いは、
希和子を
拒絶してきた今までと
希和子を
乗り越えていくこれからを
心に落とし込んでいく。
ふたりが過ごした短い時間。
しかし、
それは凝縮された尊い時間。
逃避行を続けた日々さえも
ふたりには貴重な
しかしもう二度と帰らない
懐かしい思い出。
恵理菜、
君はもう大丈夫だと伝えたい。
希和子の果たせなかった思いを
貴方が叶えて欲しい。
私は敢えてこの物語を
ハッピーエンドとしたい。
それほど二人の7日間が
輝いていたから。
「八日目の蝉」は
様々な思いを越えて
今も確かに生き続けている。
あの小豆島での
掛け替えのない日々は
ふたりをいつまでも
強く結びつけていると
思わずにはいられない。
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