桜木紫乃 氷の轍
作者紹介
桜木紫乃
北海道釧路市 出身
2002年 「雪虫」
で第82回オール読物新人賞 受賞
2013年 「ホテル ローヤル」
で第149回直木賞 受賞
代表作
「ラブレス」
「起終点駅 ターミナル」
「霧 ウラル」など
本作品は、
前作 「凍原」 の続編である
本編あらすじ
北海道釧路市の海岸で、
高齢男性の死体が発見される。
腐乱状態が激しく、
身元を示すものも所持していない。
自殺かと思われたが、
男性の服装に違和感を覚えた
釧路署・大門真由が
警部補・片桐と共に事件を追う。
釧路、札幌、青森、八戸と
調べを進める中、
高齢男性の死が
50年以上前の悲恋に
起因することを知る。
なぜ、男性は死なねば
ならなかったのか?
真由自身の生い立ちと重ね
すれ違っていく人々の
心の機微を独特のタッチで描く。
本編見どころ
この作品のポイントは、
登場人物の想い・生き様が
50数年の時を経て
どこに向かって行ったか?
一般論としての感情と
当事者でなければ
知ることのない感情
現実の厳しさ・恐ろしさ。
一つであった心が、
長い年月を経て、どこに辿り着くのか?
ここが焦点となります。
そして、主人公・大門真由が
心揺らしながらも
懸命に捜査し、真実に辿り着いた時
彼女は何を思うのか?
理想と現実、と言えば
あまりに陳腐で憚る。
物語は衝撃、ではなく
静かに幕を閉じます。
読後感
桜木さんの作品は、
いつも独特のタッチで
先読みを許さない
展開の妙にはいつも驚かされます。
ただ今作品は、
衝撃とか、壮大とかではなく
静かに、そして残酷に
人の心を描いている。
想いは伝わるなどという
理想論など虚しくなるような
厳しい現実を突き付けられた
そんな気がしました。
人が生きるとは何なのか?
人間の想いに意味はあるのか?
人と人が繋がるとは幻なのか?
様々な感情が浮かんでは消えていく。
今までにない読後感でした。
前作「凍原」とは
一味違った人間描写に、
桜木さんの懐の深さを
見せつけられた気がします。
私たちも気づかぬうちに
「氷の轍」に導かれている
のかもしれません。
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