蓮(ハス)の数式 ネタバレなし(遠田潤子)珠算教室だけが生き甲斐の主婦と算数障害の青年

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蓮の数式 ネタバレなし(遠田潤子)

序盤 抑えるべきポイント

安西千穂は不妊治療を十年以上続けている。

本人の希望というよりは、夫と義母の世間体の為である。

結婚して以来、思えば自分の気持ちを押し殺して生きてきた。夫と義母に人格を否定され操り人形のように扱われる度、子供への思いも日に日に薄れていく。

安西 千穂
安西 千穂

私の居場所はどどこ?

唯一許された事が珠算教室の経営だ。

得意のそろばんを子供たちに教えている時が千穂の生きがいとなっていた。しかしその場ですら義母の知り合いの孫などが多く、安息の地であるとも言い難い。

その日は十三回目の結婚記念日だった。食事をする予定だが、こんな日でも夫と二人ではなく義母も一緒だ。苦痛でしかない食事を終え店の外に出ると雨が降っていた。夫の運転する車で帰路に就くが、この道中、人を轢いてしまう。

夫は大学教授の地位を保身するため、千穂に身代わりになるように言い放つ。雨の中、車外に出た千穂は倒れている男に声を掛ける。

だが男は何も言わず立ち上がり、足を引き摺りながらその場を立ち去った。千穂の謝罪の言葉にも一切の関心を持たず。まるで、“身代わりは黙っていろ!”とでも言うように。

高山 透
高山 透

身代わりは黙っていろ!

彼は、高山透。これが安西千穂との運命的な出会いであった。物語は二人の関係が深まると共に、それを取り巻く人間たちの過去と過ちを明らかにしていく。

相関図

本編あらすじ

不妊治療に疲れ、家庭にも疑問を持ち、半ば人生を諦め掛けていた安西千穂。算数障害を抱え社会の片隅でひっそりと生きてきた高山透。

この二人が雨の日の交通事故の加害者と被害者という形で出会った。その事故は千穂の珠算教室付近で起こった為、付近に住んでいた透と再会するのに時間は掛からなかった。

事故の数日後、珠算教室に透が現れる。自分でも努力すれば算数を覚えられるのか?千穂はこれぞ恩返しとばかりに透を教室に誘う。そこで彼に合わせたカリキュラムを組んで必死で教えようとするが、透は自分の部屋に来た千穂を抱こうとする。

がっかりした千穂は透に金を渡して決別しようとするが、彼の心の奥底にある真実を知りたいと求めている自分に気づく。

透は何故、人生に絶望しているのか?

そんな矢先、夫・真一からいつものように身勝手なセックスを強要される。千穂は意を決してそれを拒絶する。その思いも届かず真一の暴力によって穢されてしまった千穂は、家を出ることを決意。

何とその様子を止めずに見ていた義母・寛子に更に罵声を浴びせられ、階段から弾みで突き飛ばしてしまう。それによって死亡した義母を放置し、千穂はやはり透の元へと向かう。

透はそんな千穂を黙って受け入れる。そして肌を合わせる事で何かを伝えようとする。千穂はその思いをしっかり感じようとより深く透を受け入れる。

二人はアパートを出て、透の故郷である能登へ向かうことになる。

千穂と透はこの先どうなるのか?

時を同じくして最愛の妻を殺害された新藤賢治は、弁護士からの電話で大西理香が獄中で亡くなった事を知らされる。大西理香とは、妻を殺害した犯人だ。

彼女には息子がいた。麗という。しかし妻と同時期に大西理香によって殺害された。彼女は全ての罪を認め、しかし何一つ語ることなく刑に服した。そして多くの謎を残してこの世を去った。

賢治は何故妻が殺されなければならなかったのか?どうしてもその理由を知りたかった。あんなに親身になって相談を受けていた妻を……。

妻が殺害された理由は何なのか?

そんなある日、テレビで今流行りの子供向けおもちゃの展示会が紹介された。その映像の中に……何とあの大西麗が映っていた。見間違えでは?しかしあれから十数年経っても、はっきり分かるほどその姿は瓜二つだった。

そしてそれを確信したのは、麗と親交のあった弓場のブースに彼が映っていたからだ。

麗は生きているのか?

ネタバレなしで本編を楽しむ

安西千穂と高山透。新藤賢治と大西麗。それぞれが交錯して物語は進んでいく。彼らが辿り着くのはどこなのか?

意志を押し殺し人形のように生きてきた安西千穂。算数障害を抱えひっそりと生きてきた高山透。妻を殺害され何一つ納得出来ずに生きてきた新藤賢治。死んだ筈なのに映像に映った大西麗。

徐々に明らかになっていくそれぞれの過去。そして真実。人の思いとは何か?優しさとは何か?圧倒的な悪意の前に人はどう立ち向かったら良いのか?それでもやはり人は尊いのか?

読み進めていくうち、あなたは誰に感情移入するだろう?正解なんてない。あなたの心の赴くままに最後まで読み切って欲しい。

彼らはあなただったかもしれない。

読者の感想

夫と姑から奴隷のように扱われている女が、計算ができない無口で無表情な男と出会う。二人はそれぞれ別個に人を殺し、一緒に逃げる。二人に明るい未来は望めないけれども、救いはあるのか? 最後どうなる? 一方、十数年前に妻を殺された初老の男が、十数年前に死んだはずの少年をテレビの中で見かける。探さないではいられない。この少年は何者なのか? 妻の死には謎が隠されていそうなんだけど、その謎とは? そんなミステリー仕立てのストーリー。最後、何人もの人を殺した男が純粋無垢な存在に思えてくる不思議なお話。面白く読みました。

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