桜木紫乃 氷平線 ネタバレなし!再開したあの人を今度こそ幸せにするつもりだった…。

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桜木紫乃 氷平線

ミクタギです!

男と女。

複雑怪奇。

永遠に

交わることはないのでしょう。

それでも求めてしまうのは

やはり知りたいから。

水平線、いや氷平線の先に

何を見出すのか?

作者紹介

桜木紫乃

北海道釧路市出身

2002年「雪虫」で

第82回オール読物新人賞受賞

2013年「ラブレス」で

第19回島清恋愛文学賞受賞

同年、「ホテルローヤル」で

第149回直木賞受賞

代表作

「起終点駅(ターミナル)」

「星々たち」「ブルース」

本編あらすじ

遠野誠一郎・・・・10年ぶりに故郷に帰る。

友江・・・・故郷の思い出の人

遠野誠一郎は、

10年ぶりに故郷、

オホーツクに街に帰る。

高校を出て以来、

10年ぶりの帰郷だ。

彼には思いがあった。

忘れられないあの人に会うためだ。

彼の家は貧しかった。

酒飲みの父は、

母に手を上げ、彼を虐げた。

東大に入ったら進学させてやる。

その言葉を胸に懸命に勉強した。

邪魔をする父を避けるため

酔いつぶれた後

起きだして勉強した。

その甲斐あって

彼は東大に合格した。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、彼には思いがあった。

彼が小学生の時

引っ越してきた友江である。

祖父と共に

やって来た彼女は15歳だった。

やがて狭い町に噂が流れる。

彼女は客を取っているらしい。

漁協のお偉いさんなどが上客だ。

やがて彼女の祖父は亡くなるが

最初客を取らせたのは祖父だった。

その後も彼女は

客をとって生計を立てる。

トタン屋根の古びた家の前に

白い旗が立つと来客中である。

5歳上の彼女に

心を奪われながら月日は流れる。

いよいよ上京が近づいてきた。

もやもやを抱えて

彼女の家の扉を叩く。

そこで彼は思いを遂げる。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

そのまま上京してから

10年ぶりの帰郷となる。

財務省に入省し

岩見沢税務署長として凱旋したのは

表向きは同窓会が理由だった。

しかしそれは建前上で

本当の目的は彼女に会うためだ。

彼女は相変わらずの生活をし

変わらなく彼を迎えてくれた。

10年前と同じ。

やはり彼女が欲しかった。

そしてそのまま彼女を

岩見沢に連れ帰ってしまう。

新しい生活を始めた二人だが

官舎での暮らしは

部下たちにしれてしまい

彼のキャリアを脅かすが

上司の計らいで事なきを得る。

そんな中、

故郷の同級生から連絡が入る。

彼の父が税務署に勤める息子を餌に

詐欺を働いているという。

息子に頼めば税金が安くなる。

という触れ込みで。

事が大きくなれば

彼の経歴に傷がつく。

父を止めようと帰郷を準備する中

友江がいなくなってしまう。

本編見どころ

彼女はどこへ行ったか?

この物語の焦点です。

10年前、

客として受け入れた彼を

彼女は愛してしまったのか?

それとも彼の思いに

流されてしまったのか?

人生を諦めていた彼女が

どのような思いで

誠一郎を見ていたのか?

彼となら

新しい人生を夢みれたのか?

あなた自身で見極めて欲しい。

読後感

青春の淡い思い。

男なら誰でも経験しているだろう。

その思いとは

言わば神仏化した思いだ。

決して触れてはいけない

清らかな思い。

しかし誠一郎は

そこに踏み込んでしまう。

あの日みた幻を

もう一度見たいと思ってしまった。

そして手に入れたいと思ってしまう。

男の思いとは裏腹に

女は現実を見てしまう。

やがてやってくる結末を

どうしても予想してしまう。

男を思いながら

引き際を考えてしまう彼女の

悲しい性を歯がゆく感じる。

そんな二人の

交わることのない思いを

見届けるしかない私たちは

いつしかあの日を思い出す。

この思いは永遠に変わることはない。

そう信じていたあの頃。

思いの丈を

純粋にぶつけられたあの頃。

叶わぬことなど無いと

貫き続けたあの頃。

それぞれのあの頃を思うとき

それは

誠一郎と友江に同化するだろう。

水平線、

いや氷の張った

氷平線に溶けていくように。

※ この作品は、作者のデビュー作である。

  その他「雪虫」を含め全6作からなる。

読者の感想

北海道の圧倒的な大自然の中に生きる人々の力強い日常を見事なまでに描写したこの作品。それは、『こうして脈々と受け継がれてゆく平穏は人ではなく集落自体の生命力かもしれない』という北国の大地の恵みを受け、北国の大地に生活の糧を求めそして北国の大地に人生を捧げてきた人々の生き様を見やるものでした。これが、まさかのデビュー作!という桜木紫乃さんの研ぎ澄まされた文章表現の妙を垣間見ることのできたこの作品。まるで長編小説を読み終えたかのようにも感じるその読後に深い余韻がいつまでも残り続けるのを感じた絶品でした。

デビュー作『雪虫』について以前に読んだ『ラブレス』の解説にあった“土くさい官能を描いていながら、作品全体に漂う、若者にありがちな捨て鉢な諦観と放恣な欲望のありようがなんともなまめかしくて、新人とは思えない力量を感じさせた。”という文章に惹かれて読んだ。『雪虫』はもちろん収録作品すべて良かった。特に好きなのは『夏の稜線』。変わらない風景描写が心情と合わさって重苦しいのに漲る力強さがある。どこまでも丁寧で浸っていたくなる。それぞれの短編を長編で読みたいけれど短編だからこその味があるのだと思う。

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