桜木紫乃 硝子の葦 ネタバレなし!場末のスナックが火災で全焼した。そこから消えた彼女は…。

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桜木紫乃 硝子の葦

作者紹介

桜木紫乃

北海道釧路市出身

2002年「雪虫」で

第82回オール読物新人賞受賞

2013年「ラブレス」で

第19回島清恋愛文学賞受賞

同年、「ホテルローヤル」で

第149回直木賞受賞

代表作

「起終点駅(ターミナル)」

「星々たち」「ブルース」

本編あらすじ

登場人物

幸田節子・・・喜一郎の妻

澤木昌弘・・・税理士。

幸田喜一郎・・・ホテルローヤル経営者

幸田梢・・・喜一郎の連れ子

佐野倫子・・・節子の短歌会仲間

佐野まゆみ・・・倫子の娘

都築・・・厚岸署刑事

北海道の東側、

釧路市と根室市の中間に

位置する厚岸町。

舞台はここからスタートする。

主人公幸田節子の実家である

「バビアナ」という

スナックが燃えている。

その外で叫ぶ男、澤木。

” 中に人がいるんです!”

” 何があったんですか

 誰がいるんですか? ”

尋ねる男、刑事・都築。

翌日、

店の中から焼死体が発見される。

身元は「幸田節子」と断定された。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

舞台は釧路市に移る。

高台でラブホテルを

経営していた幸田喜一郎は還暦。

その妻・節子はその半分の30歳。

喜一郎の3人目の

妻になって間もない。

節子は喜一郎の寵愛を受け

何不自由なく生活していた。

喜一郎から応援されている

短歌会の活動も

のんびりとしている。

厚岸でスナックを営んでいる

節子の母は喜一郎の元愛人だ。

母子家庭で常に

男の出入りも激しかった。

最悪の家庭環境だった。

そこから救い出してくれたのも

ある意味喜一郎だった。

澤木の税理士事務所を

就職先として

紹介してくれたのも喜一郎だ。

その後、澤木とは公私共に

深い付き合いになる。

しかし節子が

選んだのは喜一郎だった。

そんなある日ホテルローヤルの

従業員から連絡を受ける。

” すぐに病院に向かって下さい 

  社長が運ばれました。

自動車事故だった。

どうも厚岸方面からの

帰りだったようだ。

なぜ普段は使わない道を?

脳裏に母の姿が浮かんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

病院に駆け付け病状を尋ねると

喜一郎は何とか助かった。

しかし昏睡状態。

目を覚ます可能性は限りなく低い。

同じく駆け付けていた

澤木に直ぐに喜一郎の

娘・梢を探して欲しいと頼む。

万が一のことを考えねばならない。

そこへ短歌会の佐野倫子が

娘・まゆみを連れてやってきた。

お見舞いということで。

倫子は節子に一度

ゆっくり話がしたいという。

彼女に良いイメージの

ない節子は曖昧に答える。

しかし娘・まゆみの腕に

どす黒い痣を見た時

節子の中の何かが反応した。

本編見どころ

短歌会での節子と倫子は

相反する評価を受けていた。

節子は思いのままに

倫子はフィクションにように。

有名百貨店の御曹司との結婚。

何不自由ない生活。

しかし実際は百貨店の

経営が思わしくない経済状況。

節子は倫子の華やかな

歌の中に憂いを感じていた。

その憂いはまゆみに連鎖していた。

砂のように流れていた節子を

覚醒させるには十分だった。

ここが焦点である。

ここから彼女は動き出す。

喜一郎とのこと。

澤木とのこと。

倫子と真由美のこと。

母のこと。

厚岸の「バビアナ」で節子が

発見されるまでの何があったのか?

読後感

節子はまゆみに

昔の自分を見たのか?

まゆみに会ってから

彼女は変わった。

全てに折り合いをつけて

生きてきた彼女が

能動的になった瞬間のように思う。

その証拠に彼女は

ここから変わっていく。

自ら決着をつけていく。

喜一郎の事故と重なり

節子は初めて

生きたいと思ったのでは?

そんな思いを強く感じました。

喜一郎に愛され

澤木に思われても

埋められなかった節子の心は

1人の少女の出現により

融かされていった。

物語はクライマックスに向かい

静かに動いていく。

己を抑え込んできた女たちの覚醒。

女の底力を感じた。

砂が流れるように生きてきた

女たちの確かな息遣いを

心で聞いたような気がする。

読者の感想

冒頭は幸田節子の火災による自死から始まり生前の節子が主人公の物語が続く。母親の元恋人喜一郎と結婚しながら、澤木と不倫を続ける節子。喜一郎の入院後も節子をサポートする澤木。ありえない設定には突っ込みを入れたくなってしまう。小さな事件は起きるものの冗長な中盤から、最終盤、物語は一気にミステリーの様相を呈する。その展開は見事。中盤がダラダラしている分、最初と最後が鮮やかな印象を残す。桜木さんのミステリー風作品は、独特の味わいがあり好きです。ミステリーと思って読んでないから、ドキドキします。

「ホテルローヤル」の続編ともやもやしつつ読んだら別の話でサスペンス。漁師町で、自分を虐待し続けた母。その愛人のラブホテル経営者と結婚した節子。夫の交通事故から、日常が暗転し始めて一度だけ行った道東、釧路の風景や空気がよみがえる。ラブホ経営者の背負う業、人を殺めてでも生きていく女たち、葦のように。三十の節子から漂う疲弊感虚無感が、時に魅力的。衝撃のラスト、少しは救われた気持ち。澤木の「どこまでも逃げてくれ」が印象深かった。

釧路から根室へ向かう途中の厚岸と釧路が舞台。釧路出身の作者ならではの土地勘この作者独特の人間の影の表現に吸い込まれました。物語のラストも衝撃的ホテルローヤルは作者の父が経営してた実在のホテルとはまた驚き。

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