前川裕 クリーピー
作者紹介
前川裕
東京生まれ
一橋大学法学部卒
東京大学大学院修了
スタンフォード大学
客員教授を経て
法政大学国際文化学部
教授となる。
本作「クリーピー」で
第15回日本ミステリー
文学大賞新人賞を受賞。
代表作
「アトロシティー」
「酷 ハーシュ」
本編あらすじ
大学教授である高倉は
犯罪心理学を専攻している。
テレビにも出演する。
ゼミメンバーの影山燐子とは
微妙な関係である。
彼は妻・康子と二人暮らしだ。
妻から隣家の西野家が
様子がおかしいと聞く。
学校へ登校する中学生の娘を
見送る父親が気味が悪いらしい。
気のせいだと智して
その場は終わる。
そんな中、
高校時代の同級生・野上から
相談を持ち掛けられる。
東京郊外で起きた
一家行方不明事件に関する
見解が聞きたいという。
事件は、中学生の娘を残し
父、母、兄の3人が
忽然と姿を消したという。
事件前、母親が誰かに
脅されていたようだという以外
手掛かりはなかった。
野上はその事件について
調べているという。
その際、
その一家の近隣状況と
高倉家の近隣状況が
似ていないかと囁かれる。
もう少し調べてみる
という言葉を残し、
野上は行方不明になってしまう。
ある日隣家の娘・澪が
助けを求めてやってくる。
父親らしき男は
知らない男だという。
詳しく話を聞こうとした矢先
隣家・西野がやってきた。
警察を呼ぶ事態になり
澪は児童相談所に保護される。
そんな中、
同じく同級生である野上の
元妻・園子から連絡が入る。
本編見どころ
園子から聞かされた話は
野上の生い立ちに
関することだった。
野上には腹違いの兄と姉がいる。
兄は少女性愛者だった。
彼にとっての妹である
中学生の姉に異常な執着を持つ。
やがてそれを咎めた父親を
叩きのめしてしまう。
こうして兄が一家を
支配するようになったという。
兄は巧妙に家族の心理を利用し
自分の意のままに操った。
その後、両親は離婚し母型に
引き取られた彼は野上姓に、
父型に引き取られた兄と姉は
矢島姓にそれぞれ変わった。
『兄は悪魔だ』と野上は
いつも言っていたという。
この野上の兄の悪魔性、
これが事件と
どう結びついていくのか?
ここが焦点である。
読後感
やがて野上は
焼死体となって発見される。
悪魔性を持つ兄の仕業か?
ここから物語は
意外な方向へ舵を切られる。
結末は貴方自身で
確かめて欲しい。
とにかく
野上の兄・矢島の行い、
東京郊外での失踪事件、
西野家の出来事、
すべてタイトル通りの
薄気味悪さを感じる。
西野家の澪は、
父親らしき男を
知らない人という。
ならば彼は誰なのか?
知らない人間が何故
一緒に生活をしているのか?
やはり矢島のような男が
支配していたのか?
もしそうだったとして
なぜ拒否できなかったのか?
拒否できなかったとして
そんなことが可能なのか?
読み進めていくうち
疑問と薄気味悪さが
次から次へと湧いてくる。
高倉が事件を追っている際、
彼の教え子が
命を失うことになる。
責任を感じた彼は
事件を解決しようと10年間
追い続けることになる。
その先に見つけた真実は
思いもよらぬものだった。
人間社会は
秩序の上に成り立っている。
しかしそれは
あくまで性善説によるものだ。
生まれながらにしての ”悪”。
もし身近に存在したとしたら
私たちはどのようにして
身を守れば良いのか?
それらを思うとき、
つい、目を背けたくなるのは
私だけではないはずだ。
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